2008/07/05

みぞれ──安東次男詩集より(3)

地上にとどくまえに
予感の
折り返し点があって
そこから
ふらんした死んだ時間たちが
はじまる
風がそこにあまがわを張ると
太陽はこの擬卵をあたためる
空のなかへ逃げてゆく水と
その水からこぼれおちる魚たち
はぼくの神経痛だ
通行どめの柵をやぶった魚たちは
収拾のつかない白骨となって
世界に散らばる
そのときひとは



泪にちかい字を無数におもいだすが
けつして泪にはならない
                      (二月)
      CALENDRIER 定本 『安東次男著作集第一巻』より

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安東次男の詩を、これで3篇うちあげたことになりますが、まるで、グールドのバッハを聴くような興。この詩人の特徴はことばの明晰さだと思います。ぶれのない硬質なことばで、戦後のある時期を確実に伝えています。