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2023/02/06

『スペインの家』の書評が「すばる 3月号」に、評者は小野正嗣さん!

  今日発売になった雑誌「すばる 3月号」に斎藤真理子さんとの往復書簡の最終回が掲載されています。1980年代に森崎和江は読者にどんなふうに読まれたか、そして読まれ続けてきたかという鋭くも的確な指摘。それが斎藤真理子ならではの、とても柔らかい筆致で書かれています。

 手紙は、パク・ミンギュが「ブローティガンとの決闘」でどんな落とし前をつけたかで結ばれました。虹色の「うんこ」をした主人公が(なぜ虹色かは読んでね!)それを粉末にして首からかけていたが、それをブローティガンに飲ませるなんて、もうどういったらいいのかわからない話ですが、そこにはきちんと韓国と米国の微妙な関係も書かれていました。最終回の斎藤真理子さんのお手紙、みごとに決まりましたね。

 1年間、お付き合いくださって、真理子さん、どうもありがとうございました。編集の2人のKさん、本当にお世話になりました。読んでくださった読者の方々に深く感謝します!

 そして、そして。今月号では小野正嗣さんがJ・M・クッツェー『スペインの家 三つの物語』(白水社)の書評を書いてくださってます。同時代作家としてのクッツェーの最も重要なポイントを指摘し、人間クッツェーと作家クッツェーへの敬意と愛が溢れる、とても丁寧で心温まる評です。拙著『J・M・クッツェーと真実』のタイトルが「クッツェーの真実」ではなく「クッツェーと真実」であることの含意にも触れられていて、読んでいて身が引き締まる思いがしました。
 小野さんがロンドンでクッツェーに会ったシンポジウムの話がとても印象的です。そのときクッツェーが『スペインの家』の二つ目に収められた「ニートフェルローレン」を朗読するのを、小野さんは直に聞いていたんですね。

 小野さん、どうもありがとうございました。


2022/11/16

J・M・クッツェー絶頂期の短篇集『スペインの家:三つの物語』発売です

 J・M・クッツェーの絶頂期に書かれた三つの短篇が日本語になりました。『スペインの家:三つの物語』(白水社 Uブックス)です。予定より少し早く11月24日発売で、版元サイトに書影も出ました! この本の原書を入手した経緯はここでお知らせしました。

白水Uブックス, 2022
 収録された「スペインの家」「ニートフェルローレン」「彼とその従者」は、クッツェーの移動期にあたる2000年から2003年に書かれた短篇です。

「スペインの家」が発表されたのは2000年、『恥辱』で2度目のブッカー賞を受賞したばかり。これから移り住む家を、中高年になった男性が結婚する相手に喩えて、あれこれ考える話です。移民先の土地の人たちとの関係はどうなるか、なんてことも描かれています。

 次の「ニートフェルローレン」は62歳まで住んだ南アフリカという土地(農場)は、こんなふうに使われることだって不可能じゃなかったはずだ、と残念に思う気持ちがじわじわとにじみ出てくる作品。そして最後の「彼とその従者」はノーベル文学賞受賞記念講演で、本邦初訳です。

 どれも、飾らない端正な文体で、サラサラと読ませますが、最後の「彼とその従者」はなかなかの曲者です。デフォーの『ロビンソン・クルーソー』をベースにしたポストモダンぶりを楽しんでいると、だんだん「?」となってくる。既知の作品世界の要素をちりばめながら、作家個人の体験へと読者を引きつけていく寓意的な物語なんです。クッツェーはこの短篇を、2003年12月にストックホルムで朗読しました。

 J・M・クッツェーがノーベル文学賞を受賞したのは、南アフリカのケープタウンからオーストラリアのアデレードへ住まいを移した翌年のことです。

 クッツェーという作家がどんな作品を書いてきたか、ケープタウンからアデレードへ移ってどう変化したのか、彼の作品は単なるオートフィクションじゃないのだということも含めて、「訳者あとがき」で謎解きをしました。この作家の曲者ぶりを、ぜひ確かめてください。
 謎解き解説のタイトルにした「大いなる思想と寓意の海へ」は編集者のSさんの発案で、「訳者あとがきに代えて」使わせていただきました。

Penguin 版、2004
 さてさて、Uブックスのカバー(左上の写真)はジョン・クッツェーの渋いプロフィールですが、もうお気づきでしょうか? ここには作家名:J. M. Coetzee に含まれるアルファベットがすべて使われているんです。それも変形を重ねてデフォルメした文字群で描かれています。

 ノーベル文学賞を受賞した翌年にペンギンから出た、おしゃれな、ざらっとしたベージュの布張りの本に使われていたプロフィール(右の写真)です。これは2006年9月に初来日したジョン・クッツェーから何人かの人が、お土産にプレゼントされた本でもありました。

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追記:2022.11.18──Uブックスの帯をとった1冊とつけたままのものを並べて写真に撮ってみた。それをアップして、気がつきました。Penguin版のオリジナル・デザインと微妙に違うのです。襟のところが、、、ふむむむ。

 



2022/09/01

J・M・クッツェーの短編集『スペインの家──三つの物語』が暮れに出ます!→11月になりました。


すっかりご無沙汰してしまったブログですが、facebook  twitter を見る時間が増えて、気がつくと元気が削がれている。情報は早いし貴重な意見もあるのだけれど、パッチワークのような細切れの情報ばかりだと、変に心がすさんできます。というわけで、バランスを取るために、古巣に戻ってきました。


 訳書としては初訳となる『スペインの家──三つの物語』は、原タイトルが Three Stories、オーストラリアのText Publishing から2014年に出版された、おしゃれで、小さな本です。

 この年、アデレードで11月に開かれたシンポジウム、「トラヴァース、世界のなかの J・M・クッツェー/Traverses: J.M.Coetzee in the World」の2日目に、先行発売されたのをわたしもゲット。そのときのことはここに書きました

 あのシンポジウムからすでに8年、あっという間のようにも感じられますが、その8年のあいだにどれほどたくさんの出来事があったか、とりわけこの土地で(日本で!)起きたことについては、思い出すだけでほとんど目眩がしそうです。

 さて、『スペインの家──三つの物語』には、タイトルの通り三つの物語が入っています。日本語訳のタイトルになった「スペインの家」、そして「ニートフェルローレン」と「彼とその従者」ですが、それぞれにクッツェーらしく、淡々と、それでいてペーソスに溢れ、ノーベル文学賞受賞記念講演「彼とその従者」にいたっては、ロビンソン・クルーソーの話を背後に置いて、と思っていたら、どこへ連れて行かれるのか?という展開で、十二分にひねりの利いた物語になっています。

 白水社から12月に刊行予定です。どんな装丁になるのか、とても楽しみ!