2008/07/02

わたしのジャズ修業(2)──ブラウン・ベイビー

ブラウン・ベイビー、ブラウン・ベイビー、
おまえが大きくなっていくときは、
たっぷりと入ったカップから飲んでほしいもんだね、
すっくと、まっすぐに立って、胸をはって、
はっきりと、まわりに聞こえる声でしゃべるんだよ。
ブラウン・ベイビー、ブラウン・ベイビー、
年月がたっていくだろ、そのときは、
頭をしっかり、高くあげるんだよ、
正しいことがちゃんと通る規則のなかで、生きられるようになるといいね、
おまえには、自由へつづく道を歩いてほしい、
ちっちゃな、茶色の赤ちゃん、
だからお眠り、ぐっすりとお眠り、
このわたしの腕のなかで、安全に、お眠り、
おまえのお父ちゃん、お母ちゃんがおまえを守ってくれるまで、
おまえに降りかかる危害から守ってくれるまで。
ブラウン・ベイビー、あたしが一度ももったことのないものを、
おまえが手にするようになるなら、あたしは嬉しいよ、
人という人の心から、憎しみという憎しみが全部消えて、
いい子のおまえが、もっとましな世のなかで生きることになるんならね。
ブラウン・ベイビー、ブラウン・ベイビー、ブラウン・ベイビー。
             (作詞作曲/オスカー・ブラウン・Jr.)
             ************
 
それがいつだったか、はっきりと覚えてはいない。しかし、どこでこの曲を耳にしたか、それはよく覚えている。青森だ。店の名は忘れた。
 何度目かの夏休みの帰省のときだ。当時、東京から北海道へ帰省するには、上野から夜行列車に乗り、夜明け近くに青森駅について、早朝の青函連絡船に乗り継ぐのが一般的だった。空路はまだまだ高嶺の花の時代。
 青函連絡船の出発時刻までに少し時間があったのか、あるいは、東京へ帰る往路に立ち寄ったのかもしれない。とにかく、そのジャズスポットまでの地図を片手に、青森の街を歩いたことがある。

 地下の細長い店だった。入った途端、ウーン、なかなか良い音が響いているな、と思った。奥のほうに「山水」のスピーカーが2つ、少し内側に顔を向けてならんでいた。中音域の伸びがすばらしいのでボーカル向きといわれた、前面が透かし彫りになった美しいスピーカーである。
 珈琲をたのみ、店内を見まわしていると、パリパリ、と針が盤面をこする音がして、いきなり、その声が聴こえてきた。下腹部に響く、すごい声。ニーナ・シモンの「ブラウン・ベイビー」だった。

 目をあげると、遠くカウンター近くにそのLPのジャケットが飾ってあった。「いまかけているアルバムです」という意味だ。Nina Simone at the Village Gate. そこまではよく覚えている。でも、それが赤と黒のルーレット盤のジャケットだったのかどうか、よく覚えていない。いま手許にあるのは、テイチクが英国版のシリーズを出したLP「ニーナ・シモン・コレクション第6集」で、白地に、歌うニーナの横顔が描かれたものだ。ルーレット盤は、CDとして、随分あとから買った。

 でも、最初のときに受けた衝撃の感覚だけは、何十年たったいまでも、曲を聴くたびにもどってくる。あれから歩いてきた自分の道も、ぼんやりと見えてくる。(つづく)

***** オリジナル歌詞 *****
Brown Baby ──by Oscar Brown Jr.

Brown baby, brown baby. 
As you grow old
I want you to drink from the plenty cup,
I want you to stand up tall and proud,
And I want you to speak up clear and loud,
Brown baby, brown baby, brown baby,
As years go by,
I want you to go with your head up high,
I want you to live by the justice code,
And I want you to walk down freedom's road,
You little brown baby,
So lie away, lie away sleeping,
Lie away safe in my arms,
Till your daddy and your mamma protect you
And keep you safe from harm.
Brown baby, it makes me glad
You're gonna have things that I never had,
When out of all men's hearts all hate is hurled.
Sweety, you're gonna live in a better world,
Brown baby, brown baby, brown baby.