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2024/11/21

マリーズ・コンデ『心は泣いたり笑ったり』が白水Uブックスに

『心は泣いたり笑ったり』(白水Uブックス)、発売です。

 単行本として青土社から出たのは、22年前の2002年12月で、年が明けて翌年の2月にマリーズ・コンデが3度目の来日をしました。そのときチラリとお会いしました。そのエピソードも、今回は訳者あとがきに代えて「さよならマリーズ、いつかまた」に書きました。

奴隷制の遺産を
体を張って逆照射した作家は
こうして生まれた

 この帯の文言は、訳者があれこれ書いたフレーズから、編集のSさんが上手くアレンジしてくださったものです。

 カバーに使われた写真は、原著や最初の単行本に使われていた少女時代のものではなくて、コンデが『セグー』を書いてヒットしたころのものです。最初は原著の写真を、と思っていたのですが、あれこれあって……。

 でも、こうしてみると、本を手に取ったときに含みのあるこの表情を、ついついじっと見てしまうので、かえってこの写真になってよかったかなと。

 とにかく、22年も前に出て長い眠りについていた訳書が、こうしてまた新しい読者の手に届けられる、それは書物という形があってこそではないか、と思うのです。

 書物、万歳!

2014/01/14

大辻都著『渡りの文学』/マリーズ・コンデの魅力

マリーズ・コンデの本格的研究書『渡りの文学』(法政大学出版)が出た。

 研究書といっても、非常に明解かつ読みやすい文章で書かれているので、誰もがアクセスできる。そこがなんといっても嬉しい。この本の著者、大辻都さんの話を聞く会が昨日、下北沢のB&Bで開かれた。

 大辻さんは長年、マリーズ・コンデを研究してきた人だ。この作家は、カリブ海は小アンティーユ諸島に浮かぶ蝶々のような形をしたグアドループという島に1937年に生まれている。大辻さんはその島々にも何度も足を運び、著者コンデの生まれ育った場所も訪れている。昨日は島の写真のスライドショーから始まって、管啓次郎さんのテンポのいい司会で、マリーズ・コンデという作家とその作品の魅力が縦横に語られる会になった。

 まずマリーズ・コンデとはどんな作家か、という大辻さんの話があり、それからゲストの小野正嗣さんがコンデの作品を歯に衣着せず分析し(小野さんは小説家であるだけでなく、このマリーズ・コンデで博士論文を書いている研究者なのだ!)、さらに作家の性格や生きざまに大胆に突っ込みを入れた。小野さんのぶっちゃけた話しっぷりと大辻さんとの絶妙なやりとりが、じつに面白かった。

 管さんの訳書『生命の樹』からの朗読をはさんで、話はカリブ海出身の文学者たちとコンデという作家の位置関係や、1950年代末に、当時アメリカスの黒人たち誰もがあこがれた故郷「アフリカ」へ、実際に行ってしまったコンデってすごいという話になって、そこで「あこがれのアフリカ」のイメージは粉々に打ち砕かれ、アフリカ社会内で彼女が女として体験したであろう、さまざまな困難辛苦へと聴衆の想像力をぐいぐい誘った。

 とりわけコンデの最初の作品『ヘレマコノン』が書かれるまでの、マリーズ・コンデという作家が誕生していくプロセスの興味深さ。この作品をまず彼女に書かせた一筋縄では行かない「体験」と彼女の思想のせめぎあい、そこに作家コンデの核となるものが埋まっている。それはいまでは、誰もが一致する意見だと思う。だが、この作品、読解は一筋縄ではいかない。読み手の「アフリカ理解」がぎりぎりと問われてくるのだ。

 コンデがたんにカリブ海文学の作家におさまりきらないところを理解するには、彼女がギニア人と結婚してコートディヴォワール、ギニア、ガーナ、セネガルと移り住むことによって経験した「アフリカ」をどう位置づけるかが鍵になる。だが、まだまだ日本の読者は、わたしも含めて「遠い点景」としての「アフリカ」しかイメージできないところにいる。
 その部分がやわらかく耕されていくなら、つまり登場人物がひとりひとりの個性をもった人間としてイメージでき、その背景まで含めて作品全体が浮かぶようになれば、マリーズ・コンデの作品と彼女がたどった行路とその奇跡が具体的に見える視野が開けるかもしれない。
 1976年の出版当時はほとんど無視されたというこの作品、たしかに、そう簡単にわかってたまるか、といった表情をしている。1976年というのは、それほど作家の「書く現場」と読者の「机上」の距離が大きく隔絶していた時代だったのだと思う。


 しかし、それ以後のコンデの作品行為は『渡りの文学』というこの本のタイトルがいみじくも示す通りだ。カリブ海/グアドループ、ヨーロッパ/フランス、アフリカ/ギニアやセネガルなど西アフリカ諸国、そしてアメリカ合州国、を往還したマリーズ・コンデという作家の人生の奇跡は、18、19世紀の大西洋をめぐる三角貿易の地理的移動とかさなり、そのまま、人間の移動、文化的移植の経路ともかさなって、現代にいたっているのだ。その作品世界は掘り起こされるのを待っている宝物のような気がする。
 
イギリス文学、フランス文学、アメリカ文学といった枠をすべて取っ払って考えざるをえない人間の営みを、地理的にも歴史的にも、彼女の作品ははっきりと示している。だから、コンデを読むということは、その奇跡のうえに読者が自分を置いてみる試みとならざるをえないのだ。

 ようやく、時代がマリーズ・コンデの作品に追いついた、ということなのだろう。

 ついでに、昨年、コンデについて毎日新聞書いたコラムをここにリンクしておこう!


2013/03/03

「水牛のように 3月号」に詩を書きました

先月はお休みした「水牛のように」、今月は書きました。忘れないために。


   <記憶のゆきを踏んで

1981年に出した最初の詩集のタイトルが『風のなかの記憶』でした。どうやらわたしは「記憶」にずっとこだわって生きてきた人間のようです。クッツェーの作品のなかでも、回想記風の作品にダントツ興味が惹かれるし、マリーズ・コンデの場合も翻訳したのは、彼女の少女時代の回想記だった。
 こうなると「惹かれる」を通り越して「取り憑かれる」領域に入っているのかもしれません。なんで? 分からない。記憶。分からないけれど、面白い。記憶の遷移。分からないから、面白い。

2013/02/04

毎日新聞「新世紀 世界文学ナビ」にマリーズ・コンデについて

2月4日付け、つまり今朝の毎日新聞の「新世紀 世界文学ナビ」に、マリーズ・コンデについて書きました。以前、このブログでも触れましたが、おもに彼女の最新刊「La vie sans fards/すっぴん人生」を取りあげました。

 複数の文化がぶつかりあうカリブ海という「小さな場所」から、ものすごく大きな文学者たちが生み出されてきたことの意味は、「世界文学」を考えるうえで不可欠なテーマです。その深い意味あいは、何度考えても、何度取りあげても、とても足りそうにもないと思えるほどです。
 長いあいだそこにあったのに見えなかったものを可視化させ、聞こえなかったものが聞こえてくるようになる文学。その風通しのよさがもたらすものの底深い力。

 コンデはまた、いま戦争中のマリに関連のある「Segu」(1984~85)という本を書いています(Segu というのは英訳名で、オリジナルタイトルは Les murailles de terre と La terre en miettes で二巻本として出ました)。じつはこれが80年代にベストセラーとなり、コンデは一躍世に知られる作家となったのです。18世紀末にセグーを中心に栄えた王国の物語で、彼女が祖先とするバンバラ民族にささげられています。

 バンバラといえば、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェがナイジェリアでつくった出版社の名前が「サラフィナ」、バンバラ語で「アフリカ」という意味でした。ああ、繋がった〜〜。

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 2014年2月10日付記:ここで読めるようにしました。

2012/10/11

La vie sans fards──マリーズ・コンデの新著

届いたばかりのマリーズ・コンデの新著「La vie sans fards」を読みはじめたら、止まらない!
 だって、この本は2002年に(おお、10年前だ!)わたしが訳出した『心は泣いたり笑ったり』(青土社)の続編なのだから。

心は泣いたり笑ったり』は、1937年にカリブ海の島グアドループで生まれたマリーズが、少女時代とパリに留学した青春時代の最初のころを、匂いたつような生き生きとした文体で書いた自伝だった。でも、1950年代のパリで、ハイチの青年と出会ってサン・ミシェル大通りをいっしょに歩いていくところで物語は終わってしまう。

 さあ、そのあとはどうなるの? と気になってしかたがなかった。だって、そのあと彼女は別の人と結婚してアフリカへ渡り、苦労して子どもを何人も産んで育てて、ああ、やっぱりまたパリへ戻ろう、ということになって‥‥と波瀾万丈の部分は前著には少しも書かれていなくて、このつづきはまたね、という感じなのだもの。

 この La vie sans fards(虚飾のない生)が、そのつづきなのだ。タイトルからみても、まさに「すっぴん人生」、ぶっちゃけた話はこうだったの、身もふたもなく言っちゃうとこうなの、という感じで、自分の生きてきた道に情け容赦ない光をあてて、当時の心理を分析し、書き出している。
 
 帯に使われているマリーズと子どもたちの写真をみても分かるけれど、彼女は4人の子どもの母親だ。それも1人目はすごく若いときに産んでいる。4人の子どもをアフリカで育てながら、仕事をして、決意してパリへ戻って、博士号を取って、作品を書いて、それから、それから‥‥
 もう、止まらないよ〜〜

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2012年のノーベル文学賞は中国の作家、莫言/モーイェン氏が受賞しました! Congratulations! 来年はそろそろアフリカ系の女性作家が獲ってもよさそうなんだが。