2020/04/30

土はいいなあ!──植木鉢に種を蒔いた

4月30日
3月26日
窓の外では新緑が日に日に鮮やかになり、レッドロビンが真っ赤に発色していく。

 4月最後の日、気温はぐんぐん上昇して、室内でも21度か22度近い。陽のあたるベランダはもっと高く、先月末に移植したローズマリーの葉先が微風に揺れている。

 ひと月あまりで、ひょろひょろだった針のような細い葉っぱも、茎も、少しだけ太くなって、緑の色も少しだけ濃くなった。このささやかな変化、つまり生長は、見かけはどうってことないけれど、毎日水をやったり観察したりしている者には嬉しいのだ。お風呂に入れた赤ん坊の体重を、毎日計測するような感じかもしれない。枯れずに大きくなって!

なかよく並んだセージとパセリ
先日、古い土に改良材を混ぜ、黒土も混ぜ、PH濃度を調整して寝かせておいたものに、今日は種を蒔いた。
 3つのふぞろいな植木鉢に、セージを2種類、イタリアンパセリを1種類。セージもパセリも以前は苗を買ってきて植え付けたものだった。でも今回は、りちぎに種からやってみることにした。どうなるかな? ちゃんと芽を出すかな? 
 これで日々、ささやかながら、閉じこもり生活の楽しみができた。

 土はいいなあ!

2020/04/15

J・M・クッツェーのシカゴ講演:『子供百科』で成長すること(1)

雑誌『思想 5月号』(岩波書店)にJ・M・クッツェーのシカゴ講演を訳出した。2回に分けてリポートする。

 『子供百科』で成長すること:Growing Up with The Children's Encyclopedia

 ここでも紹介した、2018年10月9日にシカゴ大学で行われた講演だ。許諾を得たときに著者クッツェーから送られてきた、じつに興味深い14枚の写真も一挙掲載。

 クッツェーは1990年代末から2003年まで約6年間シカゴ大学社会思想研究所に所属し、1年のうちの半年をシカゴで過ごしていた。ノーベル文学賞受賞の報を受けたのはここに滞在したときだった。クッツェー自身にとって思い出深い場所であり、親しい友人たちのいる古巣でもある。司会のジョナサン・リアは、だから、最初に「Welcome home, John!」と呼びかけて、クッツェーにマイクを渡した。

講演の内容は、子供時代の読書がその人間の自己形成にどれほど深刻な影響をあたえるか、ということをみずからの経験を探るように分析、検証していくものだ。
講演後のQ&A
『少年時代』に「緑の本」として出てきた、アーサー・ミー編集の大部な百科事典について、それが第一次、第二次世界大戦間に、イギリス帝国のプロパガンダとして編集され、世界中で売れた背景に何があったか。歴史的な意味を白日にさらしていくのだ。
 百科事典がおもにどのような思想にもとづいて、誰が書き、それがカウンターヴォイスをもたない幼い子供にどういう影響をおよぼしたか。それがいまも彼自身のなかで、どうしようもなくかきたてる感情について。
 講演の内容はスリリングきわまりない。自伝とフィクションの境界があいまいなクッツェー作品を愛読してきた読者には、必聴、必読の内容だ。
 
HarvillSecker版
2020.1
クッツェー作品はそれが書かれた同時期の評論と読み合わせると作品理解を助ける、というのは作家自身の発言で、彼は「蛮族を待ちながら/Waiting for the Barbarians」は同時期に書かれた論考「告白と二重思考」(『世界文学論集』みすず書房)と読み合わせるといい、と推奨している。

 このシカゴ講演はちょうど「イエスの三部作」の最終巻『イエスの死』を書き終えたころの講演だ。教育、子育て、といったテーマと重なる内容から「イエスの三部作」との併読をおすすめする。作品をより深く味わうことができるのは間違いない。(つづく


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付記:公開日が4月15日になっているが、実際に公開した今日は25日。岩波書店から「思想5月号」がとどいたので、リンクを貼った。

2020/04/08

書評:関口涼子著・訳『カタストロフ前夜』

 「じんぶん堂」に関口涼子著・訳『カタストロフ前夜』(明石書店刊)の書評を書きました。

        声はわたし(たち)にも触れる

フランス語で書かれた3冊を、著者みずからが日本語に訳したという稀有な本です。もとの3冊、書名はこんな感じ。

 『これは偶然ではない/ Ce n'est pas un hasard』
 『声は現れる/ La Voix sombre』
 『亡霊食/ Manger fantôme』

 自作翻訳は、作家によってはややもすると部分的な表現の書き直しが起きやすいものですが、訳者である関口さんはこの本を原テクストにできるだけ忠実に訳したそうです。その意味は、本を読むとよくわかります。
 著者と訳者は同一人物ではあるけれど、書くことと訳すことに鋭く意識的であることは、著者が、そして訳者が、ファクトに対して誠実であろうとすることで、この訳書はそのことが浮き彫りになっています。いろんな意味でとても貴重な本です。おすすめです!

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 非常事態宣言という名の引きこもり宣言が出て、今日から引きこもらざるをえない人が増えるけど、基本的に家で机に向かって仕事をする身には、ほとんど毎日が引きこもりなので、生活のペースはあまり変わらない。

 でも、医療現場、介護の現場、清掃や保育の現場、食料や必需品を作ったり売ったり詰めたりする現場、運送する現場、そういうところで働いている人たちに生活の基本的部分を負っていることを忘れずにいよう。心から感謝する。

 そして、今回の宣言の結果、仕事がなくなったり収入が途絶えたり、減収になったりする人に、政府は即座に現金を出す。そうしなければ生活が成り立たない人がいる。無条件ですぐに出さなければダメだと思う。そのための税金であり、そのための「政府」じゃないか。