チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短編集『なにかが首のまわりに』のなかの同名の短編作品について書いてください、と編集部から依頼があったのですが、これは、いくつかのアンソロジーに入っている短編で、すでにいろいろ話をしたり書いたりしてきた作品です。
最初に日本語訳になった2007年の時点では、まだ「アメリカにいる、きみ You in America」というタイトルだったのが、2009年に英語版の短編集が出たとき The Thing Around Your Neck となって、そのまま文庫化された短編集(2019)のタイトル──なにかが首のまわりに──になりました。
今回は、最初のバージョン(2001)と最終的なバージョン(2009)の大きな違いについて書きました。そう、最後のところです。そこが決定的に変わったのです。付き合ってきた裕福な白人の男の子に対して、ラゴスに帰る主人公が空港で、見送りにきたその男の子と別れる場面。
──アメリカで「裕福でリベラルな」両親に育てられた若者の屈折した性格、その両親に対して彼が抱く不満(これは「きみ」には理解できない)などには変化がなく、書き換えられたのは、良かれと思って一方的に「きみ」にプレゼントを買ってくる若者への「きみ」の感情と態度で、そこに決定的な変化が書き込まれている。なぜいつも自分が「もらってばかり」になってしまうのか、という理不尽さが行間からにじみ出てくるのだ。
「きみ」はわずかな賃金からピン札を選んで故郷ラゴスの母親に送金する。でも手紙は書かない。書きたいことはたくさんあるのに書けないのだ。ようやく書いた手紙に、母親からすぐに返事が来る。そこには父親が死んだとあった。恋人ができてアメリカ社会の仕組みを発見しながらすぎていく暮らしのなかで、父親が死んだことも知らずにいた、と「きみ」は泣き、自分を責める。故郷へ帰るとき、飛行場まで送ってくれた彼を「きみ」はしっかりと抱きしめる。ところがそのシーンが大きく書き換えられて……
具体的にどう変わったのか、この続きは『英語教育 3月号』で、ぜひ!
2月13日発売です。