「すばる 10月号」が「あの子の文学」という特集を組んでいて、とても充実している。わたしも南アフリカ出身の作家、メアリー・ワトソンの短篇「ユングフラウ」を訳出した。2004年に出版された短篇集『Moss・苔』に収められたこの作品で、ワトソンは2006年にケイン賞を受賞した。同年9月に初来日したJ・M・クッツェーと会ったときも、この作品のことが話題になった。あれから10年あまりが過ぎて、ようやく翻訳紹介できた。嬉しい。
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| Mary Watson |
Mary Watson は1975年生まれ、ケープタウン大学で映画と文学を学び、クリエイティヴライティングの修士過程では故アンドレ・ブリンクの指導を受けた。2003年に出版された、南部アフリカの女性作家たちのアンソロジー『Women Writing Africa──The Southern Region』に協力者としてワトソンの名前がある。この分厚い本を編集した一人は知る人ぞ知るドロシー・ドライヴァー、クッツェーのパートナーだ。ドライヴァーはケープタウン大学の教授でもあったから、ワトソンはドライヴァーの教え子だったかもしれない。さらにワトソン自身がケープタウン大学で講師として映画論を教えていたという。めぐり、めぐる、人と時間。「すばる 10月号」には、ほかにも岸本佐知子さん、柴田元幸さん、斉藤真理子さん、古市真由美さんが、それぞれとても興味深い作品を紹介している。ピンクの濃淡、青と紫の色に縁取られた特集号だ。
