Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2011/11/17

クッツェー作品の舞台へ ── ケープタウン日記(3)

スクーンデル通り
昨日はケープタウンに到着して三度目の朝を迎え、さすがに長旅の疲れが出てきたので、ケープタウン大学へ行く予定をちょっと変更してフレデフーク界隈をまわった。

 ここは、スクーンデル通り、ミル通り、ブレダ通り、クローフ通り、デ・ヴァール公園といった地名がならぶ地区、『鉄の時代』の舞台となった場所だ。70歳の元ラテン語教師、エリザベス・カレンが住んでいたのはこのあたりだ。
 家政婦フローレンスの息子ベキと、その友人のジョンが自転車を相乗りして急な坂道を降りていく通りがスクーンデル通り。警察のヴァンが故意にドアを開けたため、自転車が転倒してジョンが怪我をして額からどくどくと血を流し、カレンがその傷を必死で押さえる場面があった。
 あるいは、警官たちが突入してきてジョンを撃ち殺したのち、カレンがふらふらと路上へ歩き出し、やがてフリーデ通り(平和通り)をファーカイルに抱えられて家へ帰る場面。

 通りの名前を示す標識を見るたびにいろんなシーンを思い出す。頭のなかでシャッフルされていた土地をあらわす記号が、こぎれいな屋敷、灰色のアスファルトの通り、高架下の薄暗い場所、オークの木立といった具体的なモノとなって、いま目の前にある、という奇妙な体験だった。

デ・ヴァール公園
さらに『マイケル・K』に何度も出てきた「デ・ヴァール公園」へとまわった。庭師マイケルが熊手で落ち葉を集める場所だ。時間がなかったので公園のなかには入らなかったけれど、春の緑のなかを乳母車を押して散歩する若い母親たちの姿が見えた。
 きらきらと強い光のなかに咲き残るジャカランダや、古い屋敷の庭先に咲きこぼれるブーゲンビリアの赤紫色が、本当にきれい。
 
 それから「フォルクスホスピタール/国民病院」のあった場所へ。これは『少年時代』に出てきた病院で、少年ジョンが当時住んでいたヴスターから汽車に乗り、ケープタウンまで出て、さらに母親や弟とケープタウン駅からバスに乗って病気のアニーおばさんを訪ねる。1950年代の話で、「国民病院」はすでになく、ここは民間のメディクリニックになっていた。