今日は2002年に逝った安東次男の命日。『安東次男全詩全句集』(思潮社刊、2008)から彼の詩を一篇ここに写す。
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道化
La Grille est un moment terrible pour la sensibilité, la matière. ──Antonin Artaud
色彩の興奮が撒き散らす
花粉たちの中で
不確かに傾く
一本の線
幼年の上の
弛緩を支える
饑餓の心棒
すでにして倦怠と
新鮮さはそこから生まれる
この昼の中の昼を持つ目と
夜の中の夜を持つ目は
心臓の鼓動の一つ一つのように
ぜつたいにまじわらない単音だ
遅日のゆがんだ
植物性の壷をつくる
饑餓をもつ種子たちが
手に手に過去の苞をたずさえて
そいつをこわしに到着する
内部の到着
静脈の中のふくれた風景
不透明な壷の内壁へ垂れる
粘稠な黄は
最初の存在となる
痴情は
べたべたに花粉を塗りたくつた
壷に
ぎりぎり巻きつけられる
そのとき壷は 見られることへの
痛みとなって発する
(四月)「CALENDRIER」(1960年)初出