2021年も残り少なくなりました。今年は、コロナウィルスが世界に蔓延して2年目、8月には猛暑の東京で、1年遅れのオリンピック、パラリンピックが開催されるという悪夢のような出来事もありました。しかし、過ぎ去ってしまえばすでに遠い、という感じが否めない。
でも、今年2021年はわたしにとって、なんといっても10月に3冊の著書、訳書を出せたことが大きな出来事でした。『J・M・クッツェーと真実』『少年時代の写真』(ともに白水社)『山羊と水葬』(書肆侃侃房)です。
そして今日の東京新聞に、今年の最後を飾るかのように、『J・M・クッツェーと真実』の書評が載りました。評者は、中村和恵さんです。「多様性のルーツに肉薄」というタイトルの文章で、外部から見れば「謎めいた」ように見えるクッツェーの姿を立体的に、核心をついた表現で伝えてくれました。
「J・M・クッツェーについて詳細に、同時にわかりやすく書く、という離れ業を本書はやってのける」と始まり、「現在はオーストラリア在住だが、やはり彼は南アの作家なのだ」と指摘する中村さんは、長年オーストラリアの先住民について調べてきた人です。
最後に、わたしが訳してきたアフリカ大陸出身の作家の名をあげながら、「あの大陸にはまだまだ、語られるべき物語、読まれるべき話がある」と結ぶ。この評者ならではのことばのシャベルで、時間と空間を掘り起こす視点が光ります。
Merci beaucoup!