2013/09/19

詩が書けなくなっていく青年ジョン

 じりじりと続く残暑のなかで、最後の見直しをしてきたクッツェーの『青年時代/Youth』、終わった!

自伝的三部作のまんなかにあたるこの『青年時代』は、なかなかの曲者であった。詩人として名をなすために、ケープタウンからロンドンへ渡り、コンピュータプログラマーとして灰色のビルのなかで暮らしながら、だんだん詩が書けなくなっていく青年ジョンの姿が、これでもか、これでもか、というくらい切実感をもって迫ってくる。

 20代の最初のころって、そうだった、こういう感じだった、というのは男も女も共通する部分としてある。茨の時間。でも、やっぱりこれは男の物語、それもいまと違って、1960年代初頭の若い男の物語だから、なかなか手応えもあるが、その心の底に降りていくためには、それなりの労力が必要だった。まあ、訳者が体験した青春時代と10年ほどしか違わないというのは、ある意味、助けとはなった。イギリスから日本までやってくる音楽やら映画やらの時差もあって、調べたり、当たりをつけたりする勘は十分働いた。そして、ばっちり、面白さは掛け値なしだ。

 三部作がサンドイッチだとすれば、これはちょうど中身にあたる。美味しい具なのだ。だから具体的には触れない。本ができたときに、ぜひ味わって読んでほしい。

 さて、今日は満月。中秋の名月となるや? だいじょうぶ、空は澄み、虫が鳴いている。ワインタイムにしようかな。