
東中野のシアター「風」の入った建物の入口で、こうもり傘をさした背の高いフランス人女性のジェスチャーにうながされ、ロウソクが灯された外階段をあがっていくと、なにやら暗い入口があって、そこにもまたフランス人男性が立っていて、なかに入れ、と身振りで示す。ことばはない。
恐る恐る入っていって、手を取って誘導されて行ったのは、どきどきするような不思議な空間。はらりと栞が手渡され、さらに奥へ進むと、ランプの光の下で書き物をしている男がいて、手の甲に文字を書いてくれる人がいて(わたしのは「明るい霧」)、ほのかな香りのする扇で煽られたり、あやしいまでに「幽玄な」暗い部屋を経て、階段をおりてたどりついたのは、なんと最初の入口。
ここまでですっかり、黒い衣装に黒い帽子、手には大きなコウモリ傘、おまけに扇と長い筒をもったパフォーマーたちのもつ雰囲気にのまれてしまう。
この摩訶不思議な空間で耳にすることばは、なんともあまやかで、どこかこの世のものとも思えない。やや肌寒い春の宵の、束の間のときを、ささやき手(スフルール)と聞き手が共有する、いとも甘美な時間でした。
写真はわたしの詩をささやいてくれる、アクセル・ピータースン/Axel Petersenと。Merci,Axel!