「全体わたしは湯気好きだ。生まれ変わったら雲なり風呂なり火山池なり、おひつのご飯、せいろの小龍包、なにしろなにか湯気の立つものになりたいとおもう。漱石先生は余も木瓜(ぼけ)になりたいと書いておられるが、わたくしはできれば湯気になりたい」
のっけからそんな愉快な文章で読者を世界中の食い物の世界にいざなう、おもしろ楽しい旅日記がはじまった。
世界食堂随聞記「皿の上の雲」、初回は「南インド、マイソール」である。書いておられるのは(ああ、文体が感染してきた!)この日本から、しばし「どろん」の旅に出た、詩人で作家の中村和恵さん。
南インドでは朝ごはんにイディリという、お米とお豆の粉でつくる蒸しパンのようなものを食べるそうな。ちいさな白い雲のようなものがひとつ、皿の上でほわほわと湯気を立てている場面からはじまり、話は古都マイソールの歴史やら、そこの出身の文学者、ラージャ・ラオなどへすいすい進む。ころがるような独特の文体で(読みはじめると癖になる!)、その地の事情やらそこから出てくる文学など、ふむふむ、そうか、とお勉強させていただけてまことに重宝。
旅をしながらの、この食い物エッセイが載っているのは、平凡社の「月刊百科」。2010年6月号から掲載開始です。毎月1日刊行で、大きな本屋さんに行けば無料でもらえます!
さあて、次はどんな土地の、どんな話になるのかしらん?