突然ですが、「芭蕉七部集」より「鳶の羽の巻」をここに写します。私が大学というところで、40年ほど前に日本語を再学習したテキストのひとつです。
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<鳶の羽の巻>
鳶の羽も刷(カヒツクロヒ)ぬはつしぐれ 去来
一ふき風の木(こ)の葉しづまる 芭蕉
股引(ももひき)の朝からぬるゝ川こえて 凡兆
たぬきをゝ(お)どす篠張(しのはり)の弓 史邦
まいら戸に蔦這かゝる宵の月 芭蕉
人にもくれず名物の梨 去来
かきなぐる墨絵おかしく秋暮て 史邦
はきごゝろよきめりやすの足袋 凡兆
何事も無言の内はしづかなり 去来
里見え初(そめ)て午の貝ふく 芭蕉
ほつれたる去年(こぞ)のねござのしたゝるく 凡兆
芙蓉の花のはらはらとちる 史邦
吸物は先(まず)出来(でか)されしすいぜんじ 芭蕉
三里あまりの道かゝえける 去来
この春も蘆堂が男居(ゐ)なりにて 史邦
さし木つきたる月の朧夜 凡兆
苔ながら花に竝(なら)ぶる手水鉢 芭蕉
ひとり直(なほり)し今朝の腹だち 去来
いちどきに二日の物も喰て置(おき) 凡兆
雪けにさむき嶋の北風 史邦
火ともしに暮(くる)れば登る峯の寺 去来
ほとゝぎす皆鳴仕舞たり 芭蕉
痩骨(やせぼね)のまだ起直る力なき 史邦
隣をかりて車引こむ 凡兆
うき人(ひと)を枳穀垣(きこくがき)よりくゞらせん 芭蕉
いまや別(わかれ)の刀さし出す 去来
せはしげに櫛でかしらをかきちらし 凡兆
おもひ切(きつ)たる死(しに)ぐるひ見よ 史邦
青天に有明月の朝ぼらけ 去来
湖水の秋の比良のはつ霜 芭蕉
柴の戸や蕎麦ぬすまれて歌をよむ 史邦
ぬのこ着習ふ風の夕ぐれ 凡兆
押合(おしあう)て寝ては又立つかりまくら 芭蕉
たゝらの雲のまだ赤き空 去来
一構(ひとかまへ)鞦(しりがい)つくる窓のはな 凡兆
枇杷の古葉(ふるは)に木芽(このめ)もえたつ 史邦