Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2019/02/09

お誕生日おめでとう、ジョン!

今日は、J・M・クッツェーの79回目の誕生日です。

 お誕生日おめでとう!

古巣のシカゴ大学で 2018.10.9
昨年のいまごろは、くる日もくる日も『モラルの話』の翻訳作業に明け暮れながら、
これまでのジョン・クッツェーの仕事について考えていた。
今年もまた、この作家が最初の小説を発表した1974年から
80年代後半までの南アフリカの検閲制度について、
調べたり、読んだりするうちに
夕暮れになった。
東京郊外の外では雪が降っている。ここは北半球だからね。
でもあなたの生まれた南半球では、いまは夏。
そんな夏の日に、ケープタウンの
モーブリーにある産院で、
あなたは生まれた。

昨年ここに書いたものを再読して、再度アップすることにした。
だって、そこに訳者であるわたしがいいたいことは
ほぼすべて書かれていたから。

*****

 人は生まれる場所も、生まれる時代も選ぶことはできない、とあなたは言った。そのことばでどれほど多くの人が、少しだけ自分の肩から荷をおろすことができたか。
人は生まれてくるとき、その親を選ぶこともできない、とあなたは言った。そのことばでどれほど多くの人が、こうしていま自分がこの世にあることには、どう努力しても自分の力だけでは変えられない部分があるのだと認めることができた。
ならば、その立脚点から最善を尽くせばいいと知ったのだ。
それは諦めにも似ているけれど、それだけではない。

 もちろん、特権的な立場にいることに盲目であっていいわけはない。ヨーロッパ系の、白人で、男性であるあなたは、その盲目性をとことん自問する作品を書いてきたように、私には思える。恵まれないと思ってきた自分が、広い視野から見てみれば、相対的には恵まれた立場にあることに気づかせてくれる、
その「広い視野」へ出ることをあなたの作品群は教えてくれるのだ。

 作家としてのあなたの姿勢は、
必要以上の富をもとめる強欲が地表をおおう、この心の氷河期に、
希望という埋み火を、個々人の胸のうちに掘り起こそうとする営みに似ている。

 Muchas gracias, John Coetzee!