Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2016/07/17

盛会でした:『鏡のなかのボードレール』@B&B

 気温も湿度もぐんぐんあがる梅雨の季節に、大勢の人が足を運んでくださって、昨日、B&Bで開かれた会が無事に終わりました。中身の濃い時間でした。
 トークあり、朗読あり、質疑応答あり、の2時間を超える長帳場を最後までおつきあいくださって、みなさん、どうもありがとうございました。

 清岡智比古さんは阿部良雄さんのもとで5年間もボードレールを学んだ方だったとは……迂闊にも昨日知りましたが、おかげで19世紀のパリ事情やボードレールをめぐる細部など、わたしが忘れていたこと、知らなかったことなどがしっかり補われ、充実した内容になりました。また、「旅への誘い」を清岡さんがフランス語で、わたしが日本語訳で読み、フランス語の押韻詩の美しさがあたりに心地よく響きました。

 ぱくきょんみさんの朗読がまた、しっとりとして素晴らしかった。『鏡のなかのボードレール』の最後に置いたアンジェラ・カーターの短編「ブラック・ヴィーナス」から2回に分けて朗読。一瞬のうちにカーターの濃密な作品世界が立ち上がり、同時に、ジャンヌ・デュヴァルという女性の視点からライティングバックされたボードレール世界が、ことばの鏡に映し出されていく。これは貴重な体験でした。


 最後に、21歳にしてあこがれのパリではなく、やむなくロンドンへ渡って詩人になる修行を積んだJMクッツェーが(自伝的三部作の『青年時代』に詳しく出てきます)、ボードレールの詩をどう評価しているかを話し、クッツェーのことを書いた詩「ピンネシリから岬の街へ」を朗読しました。
 この詩の英訳にまつわるエピソードも披露。田中庸介さんとジェフリー・アングルスさんの翻訳で「ユング・ジャーナル」に掲載された作品ですが、それをジョン・クッツェーさんに送ったところ、「ユング・ジャーナル」の編集者ポール・ワツキーさんが、なんと彼とおなじ大学にいたことが分かったのです。1968年ころ、クッツェーさんが最初の米国滞在中バッファローのニューヨーク州立大学で教えはじめたとき、ワツキーさんはその大学の院生だったというのです。(付記:2016.9.10 事実関係を少し訂正しました。)
 二人の友情が45年ぶりに再開されるのを目の当たりにするのはスリリングな体験でした。世界はどこかでつながっている。世界がどんどん小さくなっていく。そんなことを実感させてくれるエピソードです。

 土曜の午後のにぎやかな下北沢の街を、打ち合わせするカフェをもとめて、清岡さん、ぱくさんと3人で荷物を持ってうろうろしたことも、きっと忘れられない思い出になるでしょう。そして最後に、この本を出してくれた共和国の下平尾直さんにあらためて感謝!

  2016年7月16日は、わたしにとって記念すべき1日になりました。みなさん、どうもありがとう!