Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2015/12/28

今日は仕事納め

なかなか仕事が終わらないのだ。それでも今日は仕事納めにした。その中間報告。

 9月初旬に訳了してから、もう一度、477ページの原書と訳を一行一行付き合わせる。それから再度、読み直しながらじっくり日本語を練り直し、さらに再々度スピードをつけて通読する。そうやって一章、一章を仕上げていく。それがわたしのやり方で、これがけっこう時間がかかる。どのプロセスもすべて一人でやるし、細かなところまで気を抜かずに緊張感を保ちながら作業をしたいので、一日で最良の時間をあてる。頭が疲れてきたら休み、絶対に手抜きをしない、という贅沢な時間の使い方をしているために、なかなか終わらないのだ。

 それでも、今日はようやく、年内にここまでと予定していた分量をクリアした。スケジュールを何度か立て直しながら、ようやくここまできて、来年初めには完成する予定。

 それで感想──アディーチェさん、腕をあげましたねえ。『半分のぼった黄色い太陽』が出たのが2006年だったから作家が29歳になった年で、この『アメリカーナ』が出版されたときは35歳か。
  心理描写がぐんと深くて、鋭くて、さらに繊細になった。時間の使い方も手が込んできて、訳していて何度もうなってしまった。移民の問題、9.11以降のナイジェリア、アメリカ、イギリスのようす、オバマ大統領誕生のアメリカ社会の興奮などを背景に、恋人たちにつぎつぎと起きる出来事。その細部にちらりちらりと鋭い文学批評や社会批評なども織り込まれる。
 それでいて、アディーチェ自身は「メロドラマ仕立てのラブストーリーにしたかった」と語り、そんな筋の運びにしっかり成功しているのだから、この人の幅の広い、のびやかな底力は圧倒的だ。主人公だけではなく、脇役や、ちょい役も、じつにリアルで奥行きのある性格、風貌が浮かんでくる描き方をしている。アディーチェの「聴き耳」が光るところだ。

 来年半ばには本屋さんにならぶはず。
 がんばります! みなさん待っていてくださいね。