2015/08/20

パウル・クレーと夏日記(17)──跳ぶ人

「Jumper」とタイトルにある。跳ぶ人。飛び跳ねる人。バッタ人間か。翻訳をしていると、ことばとことばの間をひょんと跳んでいる感じはつねにあって、この「跳ぶ人」はそんな気分を映し出す。さて、夏日記は今日でおしまい。クレーってやっぱり秋か冬に向いている絵が多い。絵が、濃いのだ。



 でもよく見ると、この絵に描かれているのは、うまく飛べなくて、両手をあげてギヴアップしている姿にも見える。適切なことばがみつからずに、じたばた手足を動かしている翻訳者の姿かも。見る側の気分しだいで、そんなふうにも見えてしまうところが面白い。
 そして、やっぱり「赤」が入るのだ。クレーって、必ず絵のどこかに「赤」があることを、今回の日記で再発見した。

 ことばのソリディティについて考えつづけたい。噓や詭弁で言い換えられない、脈絡をもったことばの連なりについて。明快で、明晰で、凛とした硬質なことばについて。そしてどこかに、ぽっちりと暖かい「赤」が入ることばの束について。