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この大学では、昨年のいまごろ、ポール・オースターとクッツェーがいっしょに『ヒア・アンド・ナウ』から朗読をしたのだった。
セミナーは「南の文学の抵抗と創出」を願って、4月と9月に年2回、この大学の大学院の授業として開かれる。第一回はオーストラリアの作家、ゲイル・ジョーンズとニコラス・ジョーズを迎えて7日から始まった。第2回は9月に、南アフリカからゾーイ・ウィカムとアイヴァン・ヴラディスラヴィッチを迎える予定だという。要するに、ヨーロッパとアメリカを中心にした「北の文学圏」に対して、アフリカとオーストラリアに南アメリカを加えて横断する「南の文学圏」を強く打ち出す姿勢といえるだろう。
このセミナー開催にあたって、クッツェーが雑誌クラリンにメールインタビューで答えている。その内容がとても面白くて、刺激的だ。北側が文学のメトロポリスとして機能してきたことに、南側から抵抗する姿勢なのだ。それは中心とされる北のメトロポリス以外の文学が、どこまでも北側からみた「エキゾチックな文学」と見なされつづけるのか、それを拒否することは可能か、可能であるとしたらどのようにしてか、という問題提起でもあるだろう。
これは先月、東京外国語大学で開かれた「語圏横断・世界文学ネットーワーク」のシンポの主旨とも直接結びつく思想なのだ。すこぶる興味深いではないか。
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「われわれ(の文学)がマイナー文学であるという考えに抵抗しなければならない」
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セミナーについて、クッツェーは「クラリン」紙の質問にメールで次のように答えている。
Q:南の文学に共通する基本的な要素とは何でしょうか?
JMC:それはまさに、われわれがこのセミナーで答えたいと思っていることです。これらの地域の作家と文学研究者どうしの繋がりはあまり強くはないので、そのため英語を使う世界への影響が、北から南へという方向になり、南から北へはあまりない。この位置関係を今回のセミナーによって覆すことが願いです。
Q:以前あなたは「スイス人が言うには、スイス人であることはマイナーな存在であることを運命づけられている」と書きました。それはオーストラリア人にも言えることでしょうか? 中心以外の文学で「マイナー」でいられずにすむ文学というのはありますか?
JMC:メトロポリスの出身でないかぎり、そして一般的に、北のメトロポリスのことを語らないかぎり「田舎者」であり「マイナー」であると運命づけられるという考えこそ、われわれが抵抗しなければならないものです。
Q:植民地であった点で共通しているオーストリアと南アフリカで、植民地化の影響の類似点と相違点は?
JMC:オーストラリアの文化的生活に、かつての植民地権力であった英国がおよぼした影響は、20世紀半ばまで強力なものでした。それ以降は英国に代わって、特にアメリカのポップカルチャーが文化モデルになりました。しかし、最良のオーストラリア人作家は独自の立場から、みずからの声で語るようになっています。
Q:オーストラリア文学は「エキゾチックな」文学に含まれるのでしょうか? それともアルゼンチン文学も同様に拒否されるのでしょうか?
JMC:世界文学(ここでは単一の「世界文学」ではなくて「世界のいろいろな文学」のニュアンス)というのは結局、北の大都市以外のところから出てくる文学を指す婉曲語法なので、オーストラリア文学も世界文学の一員であるなどと考える以前に、北のメトロポリスの文学とそうでない文学(地方的でマイナーな文学とされるもの)を区別する必要があるでしょう。
Q:中央と周辺という考えは、ヨーロッパの危機とグローバリゼーションと再定義してもいいでしょうか?
JMC:それは厄介な質問です。グローバリゼーションとは概念として、中央と周辺のあいだの対立を超越するもののように見えながら、実際は「北」がみずからを中心と見なし「南」を周辺と見なしています。
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4月7日 開会に際して:JMクッツェー
4月15日 「ナビゲーションとなるエッセイと対話」:クッツェーとアナ・カズミ・スタール
4月17日 討論「南の文学の挑戦」:クッツェー、トゥヌーナ・メルカド、ルイス・チタローニ, ゲイル・ジョーンズ、ニコラス・ジョーズ。
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