2020/04/15

J・M・クッツェーのシカゴ講演:『子供百科』で成長すること(1)

雑誌『思想 5月号』(岩波書店)にJ・M・クッツェーのシカゴ講演を訳出した。2回に分けてリポートする。

 『子供百科』で成長すること:Growing Up with The Children's Encyclopedia

 ここでも紹介した、2018年10月9日にシカゴ大学で行われた講演だ。許諾を得たときに著者クッツェーから送られてきた、じつに興味深い14枚の写真も一挙掲載。

 クッツェーは1990年代末から2003年まで約6年間シカゴ大学社会思想研究所に所属し、1年のうちの半年をシカゴで過ごしていた。ノーベル文学賞受賞の報を受けたのはここに滞在したときだった。クッツェー自身にとって思い出深い場所であり、親しい友人たちのいる古巣でもある。司会のジョナサン・リアは、だから、最初に「Welcome home, John!」と呼びかけて、クッツェーにマイクを渡した。

講演の内容は、子供時代の読書がその人間の自己形成にどれほど深刻な影響をあたえるか、ということをみずからの経験を探るように分析、検証していくものだ。
講演後のQ&A
『少年時代』に「緑の本」として出てきた、アーサー・ミー編集の大部な百科事典について、それが第一次、第二次世界大戦間に、イギリス帝国のプロパガンダとして編集され、世界中で売れた背景に何があったか。歴史的な意味を白日にさらしていくのだ。
 百科事典がおもにどのような思想にもとづいて、誰が書き、それがカウンターヴォイスをもたない幼い子供にどういう影響をおよぼしたか。それがいまも彼自身のなかで、どうしようもなくかきたてる感情について。
 講演の内容はスリリングきわまりない。自伝とフィクションの境界があいまいなクッツェー作品を愛読してきた読者には、必聴、必読の内容だ。
 
HarvillSecker版
2020.1
クッツェー作品はそれが書かれた同時期の評論と読み合わせると作品理解を助ける、というのは作家自身の発言で、彼は「蛮族を待ちながら/Waiting for the Barbarians」は同時期に書かれた論考「告白と二重思考」(『世界文学論集』みすず書房)と読み合わせるといい、と推奨している。

 このシカゴ講演はちょうど「イエスの三部作」の最終巻『イエスの死』を書き終えたころの講演だ。教育、子育て、といったテーマと重なる内容から「イエスの三部作」との併読をおすすめする。作品をより深く味わうことができるのは間違いない。(つづく


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付記:公開日が4月15日になっているが、実際に公開した今日は25日。岩波書店から「思想5月号」がとどいたので、リンクを貼った。