2018/12/03

シンプルで静かな文体──J・M・クッツェー

日経新聞の読書欄で、作家の小野正嗣さんの「半歩遅れの読書術」が始まった。

 第1回は、小野さんが2014年6月にノリッチで開かれた文学会議で、J・M・クッツェーと会ったときの話だ。クッツェー作品をつらぬく「シンプルで静かな文体」を言い当てていてみごと。おまけにその文体やことば遣いを、人間ジョン・クッツェーの立ち振る舞いと関連させているところも、実際に会って話をした実感がこもっていて、作家としての慧眼が光る。

「彼の作品はどれも深い文学的教養に支えられている。だが、知性に陶酔する技巧や華麗さとはほど遠く、禁欲的と呼びたくなるほど、シンプルで静かな文体なのだ。    ──中略──
 シャイな人だと聞いていたが、それだけではないだろう。書き言葉と同じように、しゃべる言葉もまた、熟慮を経て納得の行くものとならなければ発せられることはないのだ」

 これはもう徹頭徹尾、その通りですね、といいたくなる。とりわけ「シンプルで静かな文体」という、頭韻を踏む表現は覚えやすい。これからはわたしもこの表現を使おう。
 小野さんは、2014年に『ヒア・アンド・ナウ』(岩波書店刊、2014)の書評を書いてくれた。それを友人といっしょに英訳して、ジョン・クッツェーに送ったのだった。彼はとても喜んで、すぐにポールにも送る、と返事が来たことを思い出す。