「なにもない」を背景にしたカバー |
ケープタウンを旅したのはいまから4年ほど前のことで、ちょうど自伝的三部作『サマータイム、青年時代、少年時代』(インスクリプト)を訳している最中でした。
この三部作の表紙につかった写真は、ケープタウンから内陸をめざす国道1号線の途中で撮影したものですが、装丁の間村俊一さんから「なにを撮りたかったのかわからない」写真だ、と編集のMさんはいわれたと伝え聞きます。それで、わたしは思わずニヤリとなりました。だって、あの写真には「なにもないこと」が写っていたからです。
クッツェーの三部作を訳し終えて、ゲラも読み終えたとき、結局、クッツェーの文体はこのなにもない空間の苛烈さと拮抗するのではないか、ということで上のカバー写真になりました。