2018/07/20

日経プロムナード第3回「湿気のない土地」

日経新聞のコラム、プロムナード第3回目がアップされました。

  湿気のない土地

「なにもない」を背景にしたカバー
北海道生まれの人間には、東京の暑さや湿気はとてもにがて。数年前に、そんな湿気がない土地を旅したことを書きました。ケープタウンです。光がくっきりしていて、素人でも本のカバーなどに使える写真が撮れたのは驚き!
 ケープタウンを旅したのはいまから4年ほど前のことで、ちょうど自伝的三部作『サマータイム、青年時代、少年時代』(インスクリプト)を訳している最中でした。

 この三部作の表紙につかった写真は、ケープタウンから内陸をめざす国道1号線の途中で撮影したものですが、装丁の間村俊一さんから「なにを撮りたかったのかわからない」写真だ、と編集のMさんはいわれたと伝え聞きます。それで、わたしは思わずニヤリとなりました。だって、あの写真には「なにもないこと」が写っていたからです。

 クッツェーの三部作を訳し終えて、ゲラも読み終えたとき、結局、クッツェーの文体はこのなにもない空間の苛烈さと拮抗するのではないか、ということで上のカバー写真になりました。