Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2016/08/20

新刊めったくたガイド「本の雑誌 9月号」

うっとうしい雨と湿気がちょっと遠のいたか、と思ったらまた雨。台風の季節だものなあ、モンスーン気候の土地に生まれてしまった運命か、とため息が出てしまう。しかし。嬉しいこともありました。

『鏡のなかのボードレール』をめぐる究極の書評が出ました。
 都甲幸治さんが「本の雑誌」に連載している「新刊めったくたガイド」、9月号です。
 3冊の新刊書について書かれています。1冊目はわたしも大好きなリディア・デイヴィス、2013年に国際マン・ブッカー賞を受賞した米国の作家です。フランス文学に深く通じていて、プルーストの名訳者でもある。岸本佐知子さんの訳でこのデイヴィスの『分解する』が作品社から出たばかり。これはもう、ホント、泣けます。

 2冊目が拙著『鏡のなかのボードレール』なんですが、2冊つづけて評されていることが、まったくもって偶然とは思えない視点を浮上させています。この2冊を貫くものを評者はしっかり見抜いています。さすが。


「現代の女性は学校教育において男性として考えるように教育される。なにしろ古典の多くは男性作家のものだし、メディアでも依然として男性の視点が力を持っているのだから。しかしいざ大人になると、彼女たちは男性としては扱われない。そして彼女たちは、男の言葉を使いながら自分の心情を書くという課題に向かい合うことになる。デイヴィスはそうした軋みを見事に作品化している」

 そう書いたあとに、拙著を評することばが続き、「……<逆にいまは、ジャンヌ・デュヴァルのような女たちの声を代弁する現代文学を、日本の男性読者が若いうちに精読することの重要性をとても強く感じる>というくぼたの言葉には、日本の文学研究だけでなく、日本社会そのものを変える力がある」と結論づける、耳喜ぶことばがならんでいました。(ほら、チママンダ、聞こえた?)
 そして最後をミラン・クンデラの『小説の技法』(西永良成訳・岩波文庫)でしめるという、なんとも豪勢な盛り付け!「新刊めったくたガイド」という名もめっちゃ面白いよねえ。

「本の雑誌 9月号」、手にとって読んでみてください。ぜひ。