Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2016/03/20

春は、唸る風が……

 調子にのって駆け出そうとした漱石ざんまいの日々も、胃痛をいただいてしまって早々に中断。春の日差しのなかで、ひたすら静養と軽い手作業の日々だ。
 一昨日は部屋の隅に積んであった、書類やら、本やら、何度かの数少ない旅の記録やらを整理した。引越しをしてから、かれこれ13年以上も放ってあった、子供たちの写真も少しだけ整理した。約20〜30年前の写真である。

 これ、いつごろの写真だったっけ?──と親たちがすっかり忘れてしまった写真を、夕食に来た娘たちに見せると、さすが記憶する細胞が古びていない。あ、それは……とぴたりと言い当てる。
 卒園式、入学式の朝の写真などなど、おびただしい枚数の写真がアルバムに貼られたり、ブックポケットに収められて書棚に入っていたり。時系列にならべかえて埃を払い、しばし見入る。

 昨年秋に逝った猫の写真もたくさん出てきた。
 春は、唸る風が、旅立っていったものたちの残影を、記憶の底にかすかに波立たせる季節でもある。