2011/05/05

J. M. クッツェーが 6月にヨーク大学で朗読?

6月24日に英国はヨーク大学で開かれるサミュエル・ベケットの国際学会で、特別ゲストとして招待されたJ.M.クッツェーがベケットについて語り、自作を朗読する。

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 ヨーク大学といえば、クッツェー論でおなじみのデイヴィッド・アトウェルやデレク・アトリッジのいる大学である。アトウェルは『ダブリング・ザ・ポイント』で突っ込んだ面白いインタビューをした人。
 2003年にクッツェーがノーベル文学賞を受賞したとき、スウェーデンの新聞「ダーゲンス・ニューヘーテル」に唯一インタビュー記事が載ったが、そのときのインタビューアーがアトウェルだった。その後も興味深いクッツェー論をいくつか発表している。
 一方、ジョイス研究家のアトリッジもまた、『J.M.クッツェーと読みの倫理学』という優れたクッツェー論の著者だ。

 これまでに世界中でおびただしいクッツェー論が書かれてきた。3年ほど前に『鉄の時代』の訳者あとがきを書くとき、参考にする文献や引用は、作家自身のもの以外は、できるかぎりこの2人の著作や論文に限定しようという方針をたてた。理由は、クッツェー自身が彼ら2人の著作は信頼に足ると考えているらしいこと、さらにこの2人がテキストをあくまで南アフリカという土地から切り離さずに読み込んでいることだ。(といっても、南アフリカに「限定」しているわけではないので、誤解なきよう!)

 過去の事例から、新聞記事は憶測が強く、たとえそこに事実的な誤りが含まれていても作家自身はみずから声をあげて訂正したりしないことがわかっていた。あくまで「問われれば答える」という姿勢を貫いている(たとえば、作家のミドルネームをめぐる著作表紙の誤記やニューヨークタイムズなどの誤報道)。
 
 今年71歳になったクッツェーは、アデレード大学でふたたび教職に復帰するという情報が聞こえてきたばかり。今回、ヨーク大学ではなにを朗読するのだろう? 1月にジャイプール文学祭で読んだ「The Old Woman and the Cats」だろうか。それともまったくの新作だろうか? いずれにしても、南アフリカ時代の友人たちとの再開をはたすわけだ。

 2006年と2007年に日本を訪れ、また訪ねたいと語っていた彼は、3月11日の東北大震災後に起きた福島原発の事故をめぐって、いまどんな「オピニオン」をもっているだろう? 気になるところだ。