2009/03/18

厨房にて──『安東次男全詩全句集』より

透明な直立した触媒
水のリボンが
自然の奥の
もうひとつの自然の形に
つながつている
はじかれた水が疑つている暗部で
結晶しなかった一日が
無数の
ゼラチンの
星のようにはりついている
存在の白桃まで
ひさしく届かない

 人それを呼んで反歌という──『安東次男全詩全句集』(思潮社刊、2008)

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安東次男という詩人はものの手触りをとても大切にする人だった。骨董との付き合いにおいても、飾るだけのものはいらん、といって水に浸けて味わいを出してみたり、酒を酌んでみたり、食べ物を盛ってみたり、生活のなかで役立てることを試みていた。「骨董」などというものが、ほとんど皆無に近い旧植民地生活のなかで育った者には、いろいろ教えられることが多かった。
 この詩はそんな詩人が厨房に立ち、水と遊んでいる姿を想像させる。遊んでいるといっても、それは即座に、水と向き合い、対峙することになるのだけれど・・・。