冬は大切な時間をはこんでくる。
窓を開けると鼻につんとくる冷気、遠く林の向こうに沈む夕日。
ハン・ガンの『光と糸』を読みはじめた。これは読むタイミングを選ばなきゃいけない本だと、手にしたときから思っていた。だから、しばらく机の上に積まれていた。書物の置かれた場所が、時おり光って見えた。でも漆黒のカバーに包まれてじっと待っていてくれる、それはわかっていた。だからこそ読む側の心身の状態をていねいに準備したのだ。
ようやくページを開く。これは冬の冷気、いや、寒気の訪れとともに読む本だという直感は、あたっていた。
最初の「光と糸」を読んで⎯ノーベル文学賞受賞記念講演⎯8歳のハン・ガンが書いた文字の写真を見て、喉のあたりに込み上げてくるものに声をなくす。他にも心に染み入る文章がいくつもあって、ある種の至福感に打ちのめされるように響いてくる。
「人間性の日溜まりと血溜まりと。その二つが常に隣り合っていて、どちらかへ行こうとしたらもう一つも絶対に通らなくてはいけない。ハン・ガンの小説にはそんな特徴がある」と、あとがきで訳者は書いている。
ノーベル文学賞を50代で受賞したハン・ガン。年齢ではなくて、2024年の世界がこの人を必要としたんだ、という訳者のことばに納得する。
読みすすむにつれて、斎藤真理子の日本語で、この本を読める幸運をしみじみ思う。
過去が現在を助けることはできるか?
死者が生者を救うことはできるのか?
2025年の必読書、おすすめです。主観のみの読書感想文、コバヒデみたいだな😅、でもいいのだ。