2022/09/06

「すばる 10月号」──「曇る眼鏡を拭きながら 9」

斎藤真理子さんとの往復書簡もいよいよ後半に入り、その後半もさらに半ばを超えて、というところまできました。峠の茶屋で一服です。

 今日発売になった「すばる 10月号」の「曇る眼鏡を拭きながら 9」には盛りだくさんに、いろんなことを書きました。1968年の記憶、1984年から89年にかけて起きたさまざまなこと。懐かしい人たちもたくさん登場して。そして! 
 ぜんぜん話は飛べてないけど。ふたたびの「ヴィヴァ、藤本和子ルネサンス!」になりました。

 それにしても、斎藤真理子さんの著書『韓国文学の中心にあるもの』(イースト・プレス)は本当にありがたい本です。多くの人に読まれている──そりゃそうでしょう、と言いたくなる。

 というのもこの本は、朝鮮戦争が勃発した1950年に生まれた人間(わたしです!)にとって、かの半島に関連する文学を読むとき、歴史的背景を貫く一本の背骨となってくれるからです。大きな森への入り口を指差してくれる本といってもいいかもしれない。

 森へ誘われながら、入り口を見つける手がかりを求めながら、ここかなと思って入っていくと、すぐに怖いゲートキーパーが現れて、あんたは北なの南なの!と問いただされた。それでボークして先へ進めなくなったころの、自分の至らなさ、力不足をくっきりと指し示してくれるからです。森の豊かさまで至れない。それは日本語をあやつるこの地の歴史認識の浅さをも指差している。
 
 キーワードは「恥の忘却」です。

 おまけに『韓国文学の中心にあるもの』には、向こうの崖にあるものまで整理してもらえる。そんな力技に満ちているんです、この本は。感服しました。書いてくれて本当にありがとう、と何度でも言いたい。

 その斎藤真理子さんとの往復書簡の第9回、集英社刊「すばる 10月号」には、いま訳している J・M・クッツェーの新作 The Poleについてもチラリと書きました!