J・M・クッツェーの未邦訳の著作『厄年日記/Diary of a Bad Year』(2007)から、南アフリカの詩人・ジャーナリスであるアンキー・クロッホ(1952年生)について書かれた文章を訳出します。
〈アンキー・クロッホ/Antjie Krog について〉
放送波にのって昨日、アンキー・クロッホが自分で英訳した詩を読むのを聞いた。ぼくの間違いでなければ、彼女がオーストラリアの聴衆の前に姿を見せたのはこれが初めて。テーマは大きい──彼女が生きる南アフリカでの歴史的経験だ。詩人としての才能は挑戦を受けて立つことで伸び、決して萎縮することはなかった。強烈な、女性的知性に裏づけられた断固たる誠実さ、そこに描かれる、胸が引き裂かれるような経験。彼女が目撃した恐るべき残虐性に対する答え、引き起こされた苦悩と絶望への答え──子供たちに、人類の未来に、永遠に再生する命に向きあって。
オーストラリアには、これに比肩する熾烈さで書く者はいない。アンキー・クロッホという奇才は、ぼくにはとてもロシア的に思える。南アフリカでは、ロシアのように人生は悲惨だが、なんと勇敢な精神がすっくと立ちあがり応答することか!
(『厄年日記』より、2007、p199)
(『厄年日記』より、2007、p199)
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クロッホはアフリカーンス語で書く詩人です。アパルトヘイト政権下で行われた国家権力による残虐な暗殺、拘禁、拷問といった非人道的行為について、真実を語ることで罪を問わないという前提で「真実和解委員会」が開かれましたが、クロッホはこの委員会について詳細な報告書を書いています。それはCountry of My Skull という分厚い本になりました。邦訳もそのままの『カントリー・オブ・マイ・スカル』、現代企画室から出版されています。