Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2008/12/07

Age of Iron 米国版の表紙

長いあいだ、 Age of Iron の米国版は Viking 社から出たものと思い込んでいました。ところが違った!
 最初に発表されたのはいつものように英国版。1990年9月に Secker & Warburg 社から出ています。ところが、米国版は Random House 社からでした。
 私はこの米国版ハードカバーをもっていません。コレクションの趣味はないし、部屋は狭いし、どうしても必要な本だけ手許におくよう心がけています。それでもどんどん増えてゆく書籍。まあ、積み上げていた本が雪崩て浴室のドアがあかなくなった、という経験は幸いにしてまだありませんが…。
 さて、Age of Iron は最初にタイプスクリプトで読んでしまったので、本を買った時期は、たぶん出版されてから少しあとだったような気がします。手許にある Secker&Warburg 社ハードカバーには(右側の写真)、表紙を開いたところに「4,940」という数字がエンピツで書き込まれています。たぶん東京の洋書店が書き込んだ値段。当時、1米ドルが約150円でした。

 先日、米国版のカバー写真をみつけました(最初の白黒の表紙)。まんなかのギリシア彫刻風のデメテル像を思わせるイメージに、制服姿の黒人高校生たちが走っている場面がかぶせてあり、右下に「A Novel」とあります。1990年ころの南アフリカの激動する政治状況を前面に押し出したイメージと、しかし、この本は「小説」である、とわざわざ断り書きをしているところに、米国の読者層の、南アフリカに対する距離感をはかることができます。
 英国にとって南アフリカは長年の植民地だったわけですから、ぐんと近い。それゆえか、説明的な表記はいっさいありません。米国版はあえてドキュメントを思わせる説明的なイメージ(写真の一部)を使いながら「小説」という文字をうたっている。この作り方のちがいは、いつもながら、クッツェーの小説の売り方が英と米ではっきり異なることを表していて、一考に値します。