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今年のオープニングは10年前の第1回とおなじ、ブライテン・ブライテンバッハ。彼は、アフリカーンス語を第一言語とする南アフリカの詩人・作家で、その詩はきわめて高く評価されてきた。アパルトヘイト時代には投獄され、長期にわたって国外追放されたことはつとに有名。しかし、英語で書かれた近作「A Veil of Footsteps/足跡のヴェール」の評はどうも芳しくない。使われた言語のせいかもしれない。
今年の参加者は南アフリカをはじめ、ケニアの詩人シェリア・パテル、モーリシャスの作家アナンダ・デヴィ、コンゴ出身のフランス語で書く劇作家エマニュエル・ドンガラ、アンゴラ出身で南アに移民した作家シマオ・キカンバなど、どちらかというと南東部アフリカ出身者が多い。
面白いのは彼らの経歴。大学で学んだものに、有機農業とか文化人類学といった項目がならぶのだ。大学で文学を学んでも、食べていくためのキャリアにはなりにくいからだろう。
大会最終日を飾ったのは、オーストラリア出身のジャーナリスト、ジョン・ピルジャー。カンボジアのポルポト政権下で行われた虐殺をルポした「ゼロ・イヤー」をはじめ、すぐれたドキュメンタリーを手がけてきた人だ。
こうして見ると「ライター」というとき、そこには日本語の「作家」よりぐんと幅の広い意味が込められていることがわかる。詩や小説や文芸評論を書くだけではなく、ジャーナリストとしてドキュメンタリーを手がけたり、劇作をしたり、さまざまなジャンルで「ことばを書く」こと、「ことばで伝える」ことを仕事としている人たちが集うフェスティヴァル。
このような、国境、人種、性別、年齢、言語をこえて形成される、風通しのよいネットワークを基礎とするコミュニティーは、とても魅力的だ。喜んで、そのすそ野に加わりたいと思わせるものがある。
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☆2008.4.22北海道新聞夕刊のコラム記事に加筆しました。