Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2008/01/04

「ブルー・バートン」

 初めてステレオシステムを買ったのは1971年2月だった。学生時代に住んだ最初のアパート、四畳半という真四角のちいさな空間の、ただひとつの壁を背にしてならべられたコンポ。近くのお茶屋さんでもらってきた小ぶりの茶箱に──LPジャケットがぴったりおさまる大きさだった──クリーム色のペイントを重ね塗りし、それにSONYのレシーバー(プリメインアンプとチューナーが合体したもの)を置き、そのうえにベルトドライヴ方式のLPプレーヤーを積んで、両側に置いたシンダーブロックのうえにクライスラーのスピーカーをのせた。
 そのコンポで初めて聴いたLPが、この「ブルー・バートン」(録音:1967年7月、LPの日本発売:SONP 50220/1970年5月)だった。
 コンポを買ったばかりのころは、用があって外出してもすぐに、いそいそと帰宅して、ストーブを点ける間ももどかしく、この盤に針を落とした。
 冴えわたるタッチのルイス・ファン・ダイクのピアノをバックにして、ゆったりと深い響きが立ちあがる。3回目の東京の冬だった。コートを脱いで、お湯をわかすころにはA面は終わり、ディスクを裏返してまた針を落とす。熱い珈琲カップを手に腰をおろすと、針はすでにB面の4曲目「IN THE WEE SMALL HOURS OF THE MORNING」の溝を走っていた。
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IN THE WEE SMALL HOURS OF THE MORNING

When the sun is high
In the afternoon sky
You can always find something to do
But from dusk till dawn
As the clock ticks on
Something happens to you

In the wee small hours of the morning
While the whole wide world is fast asleep
You lie awake and think about the boy
And never ever think of counting sheep
When your lonely heart has learned its lesson
You'd be his if only he would call
In the wee small hours of the morning
That's the time you miss him most of all

When your lonely heart has learned its lesson
You'd be his if only he would call
In the wee small hours of the morning
That's the time you miss him most of all
That's the time you miss him most of all

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 アン・バートン/Ann Burton(1933〜89)はオランダ生まれのジャズシンガー。レコード盤がガリガリになるまで聴いたこのアルバムに、再度針を落としたのはほんの数年前、どっしりと重い MICRO のLPプレーヤーが、友人Oからまわってきたときだ。数百枚のLPが押し入れの天袋の奥深くしまい込まれてから、長い時間がたっていた。
 そのころ読みはじめたクッツェーの訳詩集「漕ぎ手たちのいる風景─オランダからの詩/Landscape with Rowers」のなかで、とりわけ気に入った詩人ハンス・ファファレーイ/Hans Feverey(1933〜1990)の生年が、アン・バートンと同年。偶然とはいえ、不思議な気がした。没年もわずか1年の差。まさに同時代、いや同世代のオランダ人だ。