Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2018/10/18

J・M・クッツェーが第1回マヒンドラ賞を受賞

 現地時間の10月17日(水曜日)午後、ハーヴァード大学サンダーズ劇場で、第1回マヒンドラ賞の授賞式が行われた。受賞者はJ・M・クッツェー。

アナンド・G・マヒンドラと彼の妻アヌラドハ・マヒンドラの名にちなんで設けられたこの賞は、 Mahindra Award for the Humanities とあるように、人文学と芸術に多大な貢献をした人にあたえられる賞だ。今年創設され、隔年に授与される。
 授賞式では、マヒンドラ人文学センターのディレクターとしてホミ・バーバがまず紹介のことばとして、クッツェーを「今世紀のfoundationalな作家だ」と呼び、その「理由はわれわれの基礎foundations を揺さぶったからだ」と述べた。バーバは、クッツェーの「じりじりと燃え立たせるモラル上の勇気」を強調しながら、この作家の仕事を「古典」と呼んだ。

 正賞である彫刻(写真で透明なケースに入っている金色の彫刻)はサー・アニシュ・M・カプーアが彫った、多くの頂と谷をもつ峻険な峰をかたどったもので、受賞者のたどった生涯にわたる旅をあらわしている、とバーバは述べた。長く危険なトレックを経たのち山頂からの眺めに到達するのだと。

 それでありありと思い出すのは、クッツェーの自伝的三部作の第一部『少年時代』にでてくるヴスター小学校の帽子の紀章のことだ。「紀章には山頂を星が取り巻くようにラテン語で”困難を経て星へ( ペル・アスペラ・アド・アストラ)”と書かれている」(p68/インスクリプト版)──この「自己犠牲」的な努力については、シカゴ大で行ったレクチャーでも、自分にとって現在進行形のテーマとしてあると彼は述べていた。

 クッツェーは受賞スピーチで、シカゴ大学でのレクチャーに続いて、子供時代を通して英国で編集出版された『子供百科』を読むことの影響について述べ、聴衆にこう問いかけた。「母語をもつとはどういう意味か? 母のいない人たちはいるだろうか?」クッツェーはまだ、英語を自分の母語と呼べないと述べた。

ラウンドテーブル
それを受けたラウンドテーブルで、バーバがクッツェーの提起した問題を11人の参加者それぞれに投げかけた。舞台には英語や英文学の教授陣がならび、なかにはジャメイカ・キンケイドの姿も見える。
 パネリストはクッツェーの3つのお気に入り:自転車、バッハ、ロジェ類語辞典の長所と相互の関係について語った。
 キンケイドは、自分は類語辞典なんか使わない、ときっぱりいって類語辞典を使う他の作家たちとぶつかったが、このイベントのために8冊ほど購入したことを認めたとか──ふうん、面白い。

 詳細は、ハーヴァード・クリムゾンのニュースへ。