Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2018/03/28

美しい7冊の本たち:北米黒人女性作家選

なんだろう、このわけのわからない春の感覚は? この季節になるといつも、気持ちだけ、どこかへ連れていかれそうになるのだ。足元がおぼつかなくなる。ちいさいころからそうだった。雪の面をふきすさぶ寒風の音。亡霊の声のような。

 4年前の3月末に母が逝った。94歳だった。16年前の4月初めに、母と誕生日が4日しか違わない安東次男が逝った。82歳だった。母は雪解けの北海道で。東京が住まいだった安東は、花のもとにて春に。北の春は、汚れた残雪にかこまれて気分がひたすら鬱するが、東京の春はおだやかで美しい。

ため息が出るほど美しい装丁だった
1919年7月生まれのこの2人は、あの戦争を経験し、戦後の右肩あがりの時代を経験し、さらに安東より12年も長く生きた母は、東北大震災や原発事故を遠くからながめやり、「なんだかまた時代が変になっていく」と嘆きながら死んだのだった。

 そしていま、あれからもう37年が過ぎたのか、と感慨にふけってしまう本たちがある。こうして7冊全巻をならべると、ため息が出るほど美しい。少しだけ帯の背中が日焼けしている巻があるけれど、カバーに使われた、黒人女性たちの作品を撮った写真も、こうして見るとまだまだ色鮮やかだ。装丁は平野甲賀氏。編集は、藤本和子さんと朝日新聞出版局の故・渾大防三恵さん。

 1981年と82年に朝日新聞出版局から出た、北米黒人女性作家選全7巻を、書棚からそっくり出してきて、お天気のよい朝に写真に撮ってみた。この作家選については、もうすぐ岩波書店から出る「図書」に詳しく書いた。「訳者あとがきってノイズ?」という文章だ。明けても暮れても、クッツェーの『ダスクランズ』の解説「JMクッツェーと終わりなき自問」に取り憑かれていたころのことも、書いた、書いた。(訳者あとがきというより、解説のほうがぴったりくるだろうか。だって、とにかくクッツェーのデビュー作から現在までを、ざざーっと走り抜けるように書いたのだから。)そしてそこには、いま訳してるクッツェーの最新作『モラルの話』の予告も、ちらりと!

 「図書」5月号です。