2024/08/24

海外文学の森へ 87──ダヴィド・ディオップ『夜、すべての血は黒い』


東京新聞火曜日に隔週で連載されるリレーコラム「海外文学の森へ 87」、20日(夕刊)にダヴィド・ディオップ『夜、すべての血は黒い』加藤かおり訳(早川書房) について書きました。

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「知っている、わかっている」「神の真理にかけて」とたたみかける文句がいきなり目に飛び込んでくる。

 歴史を語る叙事詩や、知恵を伝える民話神話など、リズミックな反復に乗せて語り継がれる口承文芸は、アフリカ大陸のそこかしこで発達してきた。この反復は、ダンスと共に戦士を鼓舞して一体感を作り出す歌にも多用される。

 ダヴィド・ディオップは、フランス語の小説に大胆にこのくり返しを挿入する。ひどく主観的な語りが気にならないのはそのせいだろうか。リピートの響きが前面に出るため、奥に流れる話に耳を澄まさざるをえなくなる。懐疑を押し殺す呪文に近いこの催眠効果が曲者だ。

──以下略