Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2023/06/09

オリジナル英語版『ポーランドの人、その他の物語』がオーストラリアからやってきた:翻訳作業備忘録(5)

左がオーストラリア英語版、右が日本語版
 白水社から拙者訳が刊行されたばかりの J・M・クッツェー『ポーランドの人』、世界で最初に出版される英語テクスト『The Pole and other stories / ポーランドの人とその他の物語』がやってきた!
 オーストラリアのテクスト・パブリッシングから7月1日に出版されるバージョンだ。左の写真にあるように、カバーの真ん中に大きな文字で作家の名前が浮かんでいる。とにかく「J・M・クッツェー」で売るぞ!という本造り。

 英語版『The Death of Jesus(イエスの死)』が2019年10月に英米より先に発売されたときも、出版社はText Publishing だった。そのときはコロナ前だったので、日本からもオンラインショップで注文できた。そしてぴたりと発売日にとどいた。ここに書いたように。

 ところが今回、そろそろ出るころだなと出版社のサイトを見ると、オンラインショップがない。どうやって買えばいいのか、と問い合わせのメールを出したら、一冊ご好意で贈ってくれたのだ! Gracias!

 本は国際eパケットライトで送られてきたため、オーストラリア郵便が荷物を引き受けた時点から、現在どのような状態にあるか、何度もお知らせが来た。これはありがたい。「飛行機に乗ったところ」「着陸したので税関を通れば配送される」「配送された」と逐一メールがきたのだ。(残念ながら日本からの国際eパケットライトは現在取り扱い中止。)

 さて、この本には日本語訳となった『The Pole /ポーランドの人』の他に5つの短篇が入っている。パラパラめくっていくと、そのうち4つは日本語版『モラルの話』で読めるが、1つだけ新作が入っているとわかった。わお!

   The Hope

イギリス版
 ずばり「希望」だ。カタルーニャの村に住むエリザベス・コステロがいよいよ年老いて、物忘れがひどくなり、息子ジョンに電話をかける切迫した場面から始まる短篇。これは昨年7月にミラノの文芸フェスティバルでクッツェーが朗読したもので、最後から2つ目に置かれている。最後を締めるのが「犬」、『モラルの話』では真っ先に出てくる短篇だ。この二篇、「犬つながり」で読ませて「動物と人間」をめぐる強烈な余韻を残す流れになっている。

 このオーストラリア版と同じ内容のものが、10月にイギリス版として出版されるはずだが、サイトを見るとカバーが寒色系のモスグリーンから暖色系の濃いオレンジ色に変わっていた。そうなのか!The Hope が入る短編集だものなあ!