Elizabeth Costello : I believe in what does not bother to believe in me.──J. M. Coetzee

2020/06/30

くちなし読書

 桐子細工のグラスに西洋クチナシの花を一輪投げこんで、部屋のすみに置いた。梅雨時の湿気の多い曇天をあおぎながら、胸いっぱいにクチナシのかおりを吸い込む。三半規管が気圧の影響を受けて、水平感覚がちょっと危うい。そのくらくら感は家のなかにいるかぎり、まあ、楽しめる程度のものだ。くらくらとクチナシのかおり。

 少し前にいただいたまま机上に積みあげられている本の山から、美しい装丁の一冊を引き出す。カバーをはずしてあるので、表1と表4に文字がない。背中に小さく『小説版 韓国・フェミニズム・日本』(河出書房新社)とあるだけ。そんな装丁がとてもすてき。短篇をひとつ読む。この本の編集責任者、斎藤真理子さんが訳した「追憶虫」──SFっぽいウィルスの話なのに、ちょっと泣かせる優しさがある。本を読んでいるうちに外は冷たい雨になって。

こんな雨の日の東京の午後に詠む。

  名にし負わばマンゴー通りのエスペランサ海をわたって日本語に住む

 コロナはいっこうにおさまる気配を見せない。騒動が始まって、まだ半年だものな。こうして引きこもり読書生活はまだまだ続くんだろう。手元にある歳時記をみると「くちなし読書」という季語もあるし ← 嘘!