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コサックは聞き分けのない、訓練されていない犬だと判明する。近所をうろついては庭を踏み荒らし、鶏を追いまわす。ある日、その子の後ろから学校までずっとついてくる。どうしても追い返すことができない。怒鳴りつけて石を投げると、両耳を垂れ、尻尾を両足のあいだに挟み込み、こそこそ離れていく。ところが、その子が自転車に乗ると、またすぐ後ろから、大股でゆっくりと走ってくる。とうとう、犬の首輪をつかみ、片手で自転車を押しながら、家まで連れ戻すしかなくなる。激怒して家に着いた彼は、もう学校へは行かないという。遅刻したからだ。
十分に成長しないうちに、コサックはだれかが出したガラスの砕片を食べてしまう。母親がガラスを排泄させるために浣腸をしてやるが、回復しない。三日目、犬がじっと動かなくなり、荒い息をして、母親の手を舐めようとさえしなくなると、母親はその子に、薬局まで走っていって、人に薦められた新薬を買ってくるよう命じる。大急ぎで薬局までいって大急ぎで戻るけれど、間に合わない。母親の顔はひきつり、うつろで、彼の手から薬ビンを取ろうともしない。
コサックを埋めるのを手伝う。毛布にくるんで庭の隅の土のなかに埋めてやる。墓の上に十字架を立て、その上に「コサック」と書く。もう別の犬を飼いたいとは思わない。みんながみんな、こんな死に方をするはずはないとしても。
J.M.クッツェー『少年時代』(みすず書房刊)より
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付記:少年時代のクッツェーが南アフリカの内陸ですごしたころのメモワールです。動物への陰湿な暴力を描いたシーンですが、訳したあとも忘れられない場面のひとつです。