2022/02/01

『J・M・クッツェーと真実』が読売文学賞を受賞しました

 『J・M・クッツェーと真実』(白水社)が、第73回読売文学賞(研究・翻訳賞)を受賞しました。

 電話がかかってきたときは、びっくり。嬉しさはそのあとでじわっとやってきましたが、研究・翻訳の部門だと聞いて本当に驚きました。信じられない思いでした。だって、これまでの受賞者を見ると、アカデミズムの錚々たる研究者がずらり、ずらり、ずらりと並んでいて、その合間に女性の詩人や研究者や作家の名前がちらっ、ほらっ、と浮かんでいるだけなんですから。ほぼ全員に近い方々が男性です(女性は3人のみ)。

 そしてまた、ほぼ全員が「漢字」の名前です。例外は、第42回受賞の『韓国現代詩選』の詩人、茨木のり子さん。それだって、ひらがなは5文字のうちの2文字だけです(1990年にこの翻訳が受賞したことは大きな話題になって、すごいなと思ったことは鮮烈に覚えています)。そこに姓も名も6文字すべてひらがなの、在野の、一介の翻訳者・詩人の名前が加わるのですから、背筋がピンどころか、一瞬、足がすくみそうになりました。

 J・M・クッツェーの作品に出会い、衝撃を受けて、自分のライフワークとして翻訳を続けてきた結果、大きな賞をいただいたのは翻訳者冥利につきます。ジョン・クッツェーさんに知らせると、「わたしの書いた本を解明し翻訳するためにあなたが費やしてきた歳月に相応しい報奨」とお祝いのメールが贈られてきました。もう感無量でした。

 選評を書いてくださった池澤夏樹さんの、実に見透しの良い視線に感服します。「北海道に入植した一家の娘。アイヌを押しのけて土地を奪った者の子孫。南アフリカと、世界中の植民地と、同じ構造なのだ。/その自覚に至るまでの歩みを書いた、長い旅路の記録である」という最後のことばを万感の思いで読みました。池澤さん、ありがとうございます。

 この本が出るまでに多くの方々にお世話になりました。作品を読み、苦労しながらも翻訳をして、訳者あとがきを書いて、といった一連の作業プロセスで、ギリシア・ローマ古典やキリスト教の福音書の性質などをめぐる折々の質問に快く応じて、資料を指差し助言してくれた家人、森夏樹に深く感謝します。そして、なんといっても白水社の編集者、杉本貴美代さんにはお礼の言いようもありません。

 Merci beaucoup!  Muchas gracias!  みなさん、どうもありがとうございました! 🤗💖🤗