2016/10/24

発売になりました!──アディーチェ『アメリカーナ』

ママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『アメリカーナ』が、発売になりました。
 ここまでたどりつく道のりの長かったこと。でも、本になって、書店にならびました。

 最近、BBC Radio 4 のサイトに掲載されたアディーチェの横顔をアップ。編み上げたコーンロウがとてもすてきです。



2016/10/18

アムステルダムでのアディーチェ:ロング・インタビュー

 つい最近、オランダのアムステルダムを訪れたチママンダ・ンゴズィ・アディーチェが、トーク・イベントで語る動画です。アメリカで自分が初めて「ブラック」であり「アフリカ人」だと知ったこと、小説『アメリカーナ』について、フェミニズムについて、さまざまなことについて突っ込んだ話をしています。

2016/10/12

チママンダ・アディーチェ『アメリカーナ』がついに!

ブログの欄外右上に、早々と写真をアップしてきましたが、ついに、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの『アメリカーナ』(河出書房新社刊)が発売されます。

 アディーチェの魅力はなんといっても、ストーリーテラーとしての抜群の才能です。かなり分厚い本ですが、ぐんぐん読ませます。訳しながら、加速されるスピードに机から離れられなくなり、ついにダウン、ということが幾度かありました(笑😆汗)。

 話はプリンストン大学でのフェローを修了したイフェメルが、髪を結いに隣町まででかける場面で始まります。西アフリカ出身の女性たちが経営する場末の小さなヘアサロンにたどりつくまで、そして髪を結う場面でも、タピストリーのような物語の面白さを予感させるエピソードがたっぷりと描き込まれていて、これからどんな物語が展開されるのか、期待がふくらむことでしょう。

 ピリ辛のブログにのせる素材を鋭い視線でさがす主人公イフェメル。彼女の髪はアディーチェとおなじような縮毛、キンキーヘアです。その豊かな髪は母親ゆずり。その思い出から場面は一気に、ナイジェリアで過ごした少女時代へ戻っていきます。そこで出会った運命の人、オビンゼ。でも、大学に進学するころから、二人は、運命のいたずらに翻弄されることになって……。

 西アフリカはナイジェリア、新大陸アメリカ、旧大陸イギリス、大西洋をまんなかにしてかつての歴史を逆戻りするような人の往来をベースに、現代の生活がありありと描かれます。より良き生活をもとめて人々が移動し、不運に見舞われて逆戻りし、あるいは本来の自分にもどるために帰郷する。さまざまな人間模様のなかに、いくつもの恋があり、親子の葛藤があり、移民として生きる苦労があり、政治や経済の出来事に翻弄されながら生きる人たちの姿が立ちあがってきます。

 アメリカですごす学生生活や、そこで出会ったリッチな白人の恋人や、インテリのアフリカンアメリカンのボーイフレンドとの関係などから、外部からは見えにくい、人種をめぐるアメリカ社会の細部が、アフリカ人ならではの微妙な視線によって、奥行きをもって浮上するのがこの本の特徴です。それが評価されたのか、出版された年に全米批評家協会賞を受賞しました。物語を駆動させる力は、なんといっても、熱い「ラブストーリー」です。

「弁解の余地のないオールドファッションなラブストーリーを書きたかった」──アディーチェ自身がガーディアン紙にそう語っていました。コメディタッチのメロドラマ、さわやかなスパークリングワインの味。

 さあ、軽やかに味わいながら、物語の深い森に分け入って、思う存分さまよっていただきましょう! 予約受付中です。
 

2016/10/03

藤本和子さんの、翻訳をめぐる名言あれこれ

昨夜ふいに、8年前に書いたブログの再掲を思いついた。
 つい最近、村上柴田翻訳堂から『チャイナ・メン』(新潮社)として復刻されたマキシーン・ホン・キングストンの翻訳者、藤本和子さんの、いくつかの名言をめぐるものだ。

「ゲラが火事になった!」
「翻訳はコンテクストが生命」 

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*翻訳をめぐる名言「ゲラが火事になった!」

 1980年代なかばだったでしょうか、いや、1990年代初めだったかもしれません。その人の口からじかに聞いて以来、翻訳に対する心構えとして、肝に銘じていることばがあります。

 それは、1975年にリチャード・ブローティガンの『アメリカの鱒釣り』を訳し、斬新な翻訳文体で日本の翻訳文学にまったく新しい風を吹き込んだ、藤本和子さんのことばです。

「翻訳はどのようなコンテキストで紹介されるかが生命」

 だから、解説はとても重要な要素ということになるでしょうか。
 2008年5月に青山ブックセンターで行われた岸本佐知子さんとのトークショーで、新潮文庫に入った『芝生の復讐』について語りながら、「ゲラが火事になった」とおっしゃったのが印象的でした。つまり、朱が入って真っ赤になったという意味です。「だって、間違いだってわかったものを、訂正しないわけないはいかないでしょ」とも。
 文庫化にあたって、あの大先輩の翻訳家は、細部におよぶ微妙な朱入れを、徹底的にやる姿勢をいまも崩していない。その真摯な姿勢は感動的でした。(2008.9.19)

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藤本和子さんの「ゲラが火事」は、拙訳を読み直すときいつも肝に銘じることばです。

「だって、間違いだってわかったものを、訂正しないわけないはいかないでしょ」──はい。その通りですよね。

 これは昨年12月、東京外語大で開催された岩崎力先生の仕事をめぐるイベントで耳にしたことにも通じます。岩崎先生は、ご自分の翻訳を出版されたあとも、版を重ねるたびに、何度も訳文に手を入れていたそうです。 やはり! 名訳は一夜にしてならず! なんですね。