2023/11/28

東京新聞夕刊(11月28日)マリーズ・コンデ『料理と人生』について書きました

 今日の東京新聞夕刊にマリーズ・コンデの『料理と人生』(大辻都訳、左右社)について書きました。リレーコラム「海外文学の森へ 69」です。

 すでに、やわらかなアプローチによる書評がいくつも掲載された人気の作品です。コンデ作品では1998年に日本語訳が刊行された『わたしはティチューバ:セイラムの黒人魔女』(風呂本惇子・西井のぶ子訳、新水社)以来の人気かも知れません。ついに、日本語読者もここまで追いついたか、なんてため息まじりの歓声をあげています。

 コラムでは、コンデの最初の自伝的作品『心は泣いたり笑ったり』(青土社)を2002年の暮れに訳した者として、これまでコンデが書いた4冊の自伝的作品を中心に、フランス語文学と奴隷制の歴史というコンテキストで、この作家の仕事を考えてみました。

 カリブ海に浮かぶグアドループという島に生まれ、16歳でパリに留学してからシングルマザーになり、ギニア人俳優と結婚して「憧れの」アフリカに渡り、筆舌に尽くし難い辛酸を舐めたであろうマリーズ・コンデが、ガーナでユダヤ系イギリス人のリチャード・フィルコックスと出会ったのは決定的な気がします。フィルコックスはコンデ作品の英訳者であり、終始献身的なケアラーであり続けて、『料理と人生』の聞き書きをして本にまとめた人です。

 コラムを書いてから気がついたのですが、マリーズ・コンデは、彼女が長年大学で教えたアメリカという国で、仲間に入れてもらえなかったという「アフリカン・アメリカン」の人たちとアフリカ大陸とをつなぐ貴重な立ち位置にあるのではないでしょうか。

 すでに誰かが指摘しているかもしれませんが、大西洋を中心にした地図を眺めながら思うのは、1950-60年代のアフリカ体験を書いたアメリカス出身の作家として、重要な仕事をした作家なんではないかということです。

もちろん、キャリル・フィリップスのような、カリブ海の小島に生まれて生後まもなくイギリスに渡り、学び育った英語で書く作家になって、アフリカへ旅をしてその経験を書いた人もいます。でも日本語圏文学では、そこまで視野に入れて「アフリカ」を見て、さらに「アメリカス」の文学を考える総合的な歴史的視点は、まだまだこれからなんだろうなと思うのです。


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2023.12.13──東京新聞のコラム、貼っておきます。