J・M・クッツェーの絶頂期に書かれた三つの短篇が日本語になりました。『スペインの家:三つの物語』(白水社 Uブックス)です。予定より少し早く11月24日発売で、版元サイトに書影も出ました! この本の原書を入手した経緯はここでお知らせしました。
白水Uブックス, 2022 |
「スペインの家」が発表されたのは2000年、『恥辱』で2度目のブッカー賞を受賞したばかり。これから移り住む家を、中高年になった男性が結婚する相手に喩えて、あれこれ考える話です。移民先の土地の人たちとの関係はどうなるか、なんてことも描かれています。
次の「ニートフェルローレン」は62歳まで住んだ南アフリカという土地(農場)は、こんなふうに使われることだって不可能じゃなかったはずだ、と残念に思う気持ちがじわじわとにじみ出てくる作品。そして最後の「彼とその従者」はノーベル文学賞受賞記念講演で、本邦初訳です。
どれも、飾らない端正な文体で、サラサラと読ませますが、最後の「彼とその従者」はなかなかの曲者です。デフォーの『ロビンソン・クルーソー』をベースにしたポストモダンぶりを楽しんでいると、だんだん「?」となってくる。既知の作品世界の要素をちりばめながら、作家個人の体験へと読者を引きつけていく寓意的な物語なんです。クッツェーはこの短篇を、2003年12月にストックホルムで朗読しました。
J・M・クッツェーがノーベル文学賞を受賞したのは、南アフリカのケープタウンからオーストラリアのアデレードへ住まいを移した翌年のことです。 クッツェーという作家がどんな作品を書いてきたか、ケープタウンからアデレードへ移ってどう変化したのか、彼の作品は単なるオートフィクションじゃないのだということも含めて、「訳者あとがき」で謎解きをしました。この作家の曲者ぶりを、ぜひ確かめてください。Penguin 版、2004 |
ノーベル文学賞を受賞した翌年にペンギンから出た、おしゃれな、ざらっとしたベージュの布張りの本に使われていたプロフィール(右の写真)です。これは2006年9月に初来日したジョン・クッツェーから何人かの人が、お土産にプレゼントされた本でもありました。
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追記:2022.11.18──Uブックスの帯をとった1冊とつけたままのものを並べて写真に撮ってみた。それをアップして、気がつきました。Penguin版のオリジナル・デザインと微妙に違うのです。襟のところが、、、ふむむむ。