2014/02/11

『現代思想 ネルソン・マンデラ特集』

現代思想 3月臨時増刊号──ネルソン・マンデラ総特集

さきほど届きました。厚い! 昨年12月5日に95歳で他界したネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領の特集号です。マンデラ自身のことばもたっぷり含まれ、J・M・クッツェー、ナディン・ゴーディマ、ゼイクス・ムダら南アフリカの同時代の作家たちの追悼文、ナイジェリアの劇作家ショインカが80年代に書いたマンデラへのオマージュともいえる詩もあります。

 また、日本における反アパルトヘイト運動の中心人物であった楠原彰氏のインタビュー、ANC東京オフィスの専従スタッフだった津山直子氏と西アフリカの政治を専門とする勝俣誠氏(マンデラ歓迎委員会の副委員長でもあった)の対談、ジェンダーを切り口にした楠瀬佳子氏の文章や、鵜飼哲氏のインタビューなど、長期にわたり南アフリカに関わってきたそうそうたる人たちの文章が掲載されていて、非常に読み応えがあります。オバマ大統領のマンデラ追悼集会でのスピーチの訳や、音楽で透視する東琢磨氏の文章もある。
 
 わたしはクッツェーとムダのマンデラ追悼文とショインカの詩を訳し、ゴーディマの長い追悼文をクッツェーの文章と比較しながら紹介しました。80年代後半の日本の状況も書き込みました。充実した内容の目次を見てください。




 2月13日発売です。













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2014.2.14:付記──いろいろ興味深い論考やインタビューがならんでいるなかで、峯陽一さんの文章「闘いはわが人生」が秀逸です。政治家としてのマンデラ像が非常にクリアに立ちあがってくる。ANCという組織のトップとして、南アフリカ共産党員でもあったマンデラが、武装闘争を呼びかけたのちはテロリストと呼ばれ、「自由憲章」の実現を夢見て、多くの盟友とともに何を成し遂げ、何を成し遂げることができなかったか。南アフリカという土地を舞台に、1918年に生まれて2013年に没するまで、思想家というよりは飛び抜けてすぐれた政治家であったネルソン・ホリシャシャ・マンデラが生きた航跡。そのコンテキストがよく理解できる文章です。お薦めです。

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2014.2.15:付記のつづき──巻頭に訳出したJ・M・クッツェーの追悼文には「F・W・デクラークとともに──モラル上はるかに劣る人物ではあれ、彼もまた彼なりに、南アフリカ解放への貢献者なのだ──マンデラは・・・」とある。このデクラークをめぐる発言の真意はなにか? クッツェーはオースターとの往復書簡集でこう書いている。

「軍の将軍たちを蚊帳の外に置いたことはF・W・デクラークの功績だった。それはみずから劇的な制度改革に着手する前に彼が舞台裏でやったことだ。」

 これは、舞台裏でデクラークが南アフリカ国防軍を抑えておかなかったなら、あの国はクーデタが起きて内戦に突入したかもしれない、その危険を示唆しているように思えてならない。1980年代から90年代の騒然とした南アフリカを歴史的に見る冷徹な視線がここにはある。これもまたゴーディマとの際立った違いだろうか。