2013/05/23

リディア・デイヴィスがマン・ブッカー国際賞受賞

アメリカの知る人ぞ知る「静かな巨人」といわれる作家、リディア・デイヴィスが今年のマン・ブッカー国際賞を受賞した。これは作品ではなく作家の仕事全体に与えられる賞だ。

日本語でも岸本佐知子さんの訳で『ほとんど記憶のない女』(白水社)や『話の終わり』(作品社)が読める。2011年2月にNHKの週間ブックレビューに出たとき「いちおし」として取りあげた『話の終わり』は、ホントに面白い作品だ。きわめて論理的かつ知的な思考が、逆に(いや順当に?)妄想やストーカー的追求になったり、クールな分析のなかに突然、あふれるごとくリアルな熱い感情がほとばしり出たり、はらはらしながら、でも、ゆっくりと噛み締めるように、味わいながら読んでいける本だった。
 
 リディア・デイヴィスはフランス文学者で、ブランショやプルーストの英訳者でもあり、それでフランスの大きな賞も受賞している。最近もフロベールの『ボヴァリー夫人』を訳したり。
 ポール・オースターと最初結婚していたけれど離婚、というのが日本ではよく取りざたされるけれど、彼女の仕事ぶりを見ていると、どうやらアメリカではオースターよりずっと重鎮なのかな、と思わせるものがある。
 
 ブッカー賞は、10月に発表されるマン・ブッカー賞にしろ、今回の国際賞にしろ、審査員が毎回入れ替わる。これは風通しがよくていい。毎年、似たような傾向の作品ばかりが押し出されることなく、異色の才能が認められるチャンスも大きい。今年の国際賞の審査員は、チェアが Sir Chiristopher Ricks、審査員が Elif Batuan、Aminata Forna、Yiyun Li、Tim Parks だ。このなかで馴染みがあるのは、ティム・パークス、アミナタ・フォルナ、イーユン・リーだけれど、英語を第一言語としないリーの存在は目を引く。「ガーディアン」の記事も、こんなうに結ばれている。


Parks and Ricks were joined on the jury by the authors Elif Batuman, Aminatta Forna and Yiyun Li. "The problem is when you've got a jury, only one member of which's first language is not English [Li], the problem is it becomes much more difficult to develop a consensus around someone coming from a different culture," said Parks. "You can make what you will of that, and perhaps the only thing to do is to have a jury which is not all native English speakers."


 デイヴィスの日本語訳はこれからも岸本さんの訳でぞくぞくと出版される予定だと聞いている。それは、待っている楽しみというのがこれからずっと続くということでもあるな。わくわく!

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付記:2013.5.24    ついでに受賞スピーチを貼付けておこう。翻訳と言う行為の重要性をしっかり述べているリディア・デイヴィス。小説、短編、そしてフランス語から英語への翻訳、その仕事全体にあたえられた賞というところが、今回の受賞の際立ったポイント。その意味でも、すばらしい。