2010/05/18

進化する「きみ」と「首のまわり」──チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

9月に開かれる「国際ペン東京大会2010」のために、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェが初来日することはすでに書きました。早稲田大学で開かれる「文学フォーラム」では24日にステージにあがる予定です。そこで取りあげられるのは、邦訳短編集『アメリカにいる、きみ』(河出書房新社刊、2007)に入った表題作。でも、この短編作品、話がちょっとややこしいのです。

 短編「アメリカにいる、きみ/You in America」は最初、Zoetrope という雑誌に掲載されました。2001年冬号です。このバージョンは『Discovery Home』(Bellevue:Jacana, 2003)という本に入りました。2002年のケイン賞受賞作品を集めたアンソロジーです。
 ところが2004年、この短編はタイトルが「なにかが首のまわりに/The Thing Around Your Neck」に変わり、内容にも少し手が入り Prospect という雑誌に再録されて、さらに2年後には『This Is Not Chick Lit』(NY. Random House, 2006)や、Ms. Magazine(2006、夏号)にも再々録されることになります。

 訳者は最初のZoetrope 版を読んで、日本独自版短編集の企画を立てましたが、最終的には、2007年に出版する時点での最新バージョンを使いました。あとがきにも書きましたが、作家から「これを使って」と新しいバージョンが送られてきたからです。

 ところが、2009年4月に英語版として出た短編集『The Thing Around Your Neck』(表題作が邦訳短編集と同一作品だった! タイトルは変わりましたが)を読んでみると、なんと、それよりさらに進化したバージョンが入っているではありませんか。細かく比較してみると、どのページも大幅に書き直し、手直し、段落の入れ替えなどが行われていました。わ〜っ、どうしよう!
 そこで、この短編をステージにのせるため、全面改訳することにしました。作家が来日して、朗読するとなると、やはり、最新バージョンですよね。

 注目したいのは、その進化の中身です。ナイジェリアのラゴスから運良く米国のヴィザを取得して渡米した「きみ」が、そこで出会う違和感、カルチャーショック、ステロタイプのアフリカ人像、そして働いているレストランへやってきた金髪の男の子と仲良くなるプロセスなどをめぐって、微妙かつ明確な書き換えが行われているのです。
 読後感が「くいっ」と違います。詳細は英語版を読めばわかりますが、9月24日に実際に早稲田に足を運んで、日本語として耳から体験していただくのも面白いはず。

 アディーチェという32歳の作家がここ数年間で、どんなふうに力をつけてきたか、どんな方向へ向かおうとしているのか、この「アメリカにいる、きみ」いや「なにかが首のまわりに」をめぐる微妙な変化は、それをとてもよく表しているように思えます。ファン、必見のステージです!