2008/04/17

好きな本(6)『アフリカン・アメリカン文化の誕生』その3

 初めて藤本和子氏の編集した「北米黒人女性作家選」という7冊からなるシリーズに出会ったのは、1982年ころだったと思う。それはトニ・モリスン、アリス・ウォーカー、ヌトザケ・シャンゲ、ミシェル・ウォレス、ゾラ・ニール・ハーストンといった、いまでは個別に何冊も訳書がある作家たちの作品を、まとまったかたちで初めて読むことができた選集だった。わたしは大きな感銘と衝撃を受けた。アフリカン・アメリカンという集団としての経験と記憶に関連づけて、北米の黒人女性作家を紹介する画期的なこの選集には、きわめてすぐれた特徴があった。巻末に、読者の理解を助けるための、編者による味わい深い解説、女たちの同時代(左をクリックすると「水牛の本棚」でその全文が読めます!! )がついていただけでなく、個々の作品を読んだ日本の女性作家たちの同時代的な共感をあらわす文もついていて、読者がより立体的に、作品世界と向き合えるようになっていたのだ。(女性作家たちとは、津島佑子、森崎和江、石牟礼道子、矢島翠、ヤマグチフミコ、堀場清子だった。)

 まさに書物は紙の鏡。わたしたちは読むことによって、1冊の本をおもしろいといって消費するだけでなく、自分の顔を、精神構造を、そこに映し出すこともできるということを、あらためて教えてくれる選集だった。それら作品群が問いかけてきたのは、他者=異なる者ときちんと向き合うことだった。クレオール主義とか、ポストコロニアル文学といったことばが出まわる、はるか以前のことである。(この選集が出たのは1981、82年。)

アフリカン・アメリカン文化の誕生』で藤本氏は、当時77歳の高名な人類学者の話を聞き、その内容をもとに日本語の本を編むという離れ業をやってのけた。そして、北米黒人女性作家選の作品世界をつらぬくアフリカン・アメリカン文化の本質とでもいうべきものを、日本の読者の前に、とてもわかりやすいことばで開いて見せてくれた。その結果、じつに内容の濃い、専門的な知識に、だれもがアクセスできる本が誕生したのだ。
 わずか250ページあまりを読み終えるまでに、わたしは、目から鱗が何枚も落ちた。(了)
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 出版からすでに8年がたちました。文句なく、このジャンルの入門書として最適の書なので、1日も早く、ハンディな文庫になることを期待します。