いやあ、名前の読みは難しい!
今年のアカデミー作品賞を受賞した映画「12 Years a Slave/それでも夜は明ける」の主演男優、Chiwetel Ejiofor の名前の読みはこれまで日本では「キウェテル」とされてきましたが、実は「チ」で始まる音です。ご本人が「tʃ」です、と言ったこともあって、日本版のWiki も「キウェテル」をやめて「チ」で始まる表記に訂正しよう、という動きが出てきました。Welcome!
この俳優はまた、チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの原作『半分のぼった黄色い太陽』を映画化した同名の作品にも出ていて、オデニボを演じています。このブログではもっぱら原音に近い表記「チウェテル」を使ってきました。たとえば
このサイト、あるいは
このサイト。
チウェテル・エジオフォーは1977年にイギリスで生まれていますが、両親はアディーチェとおなじイボ人。奇しくも同年生まれのアディーチェの名前 Chimamanda/チママンダ、を見てもわかるように、イボ人には、Chi で始まる名前がとても多い。これにはれっきとした理由があります。
「チ/chi」というのはイボ民族にとってはとても重要な意味をもつ語なのです。手元にある 「Igbo-English Dicitionary」(Yale University Press, 1998)によれば
「personal god; Guardian angel; spiritself; symbol of personal identity, autonomy, fate and destiny」
とあります。まあ、 その人の守護霊、守護神のようなもの、と考えていいのかもしれません。
Chimamanda の場合は、Chim=my god で、全体としては、My god will never fail. という意味です。直訳すれば「私の神は失敗しない」となりますが、fail には「落ちる、衰える、消える、弱る」といった意味もあるので、まあちょっと意訳ですが「わたしの神は倒れない」としてきました。
さて、問題の Chiwetel ですが、これは「God brings」という意味だとか。「神がもたらす」というわけですね! ほかにも、Chi で始まるイボ民族出身の有名人がいます。あの「アフリカ文学の父」(この呼称にはさまざまな異論はありますが)といわれた、Chinua Achebe/チヌア・アチェベです。Chinua は Chinualumogu の略で、「May God fight on my behalf/神がわたしのために闘ってくれますように」という意味だとか。わーお!(といったことはすべて知人Mさんに教えてもらいました。)
というわけで、イボ語のにわか知識を総動員して書きましたが、1977年生まれの若手俳優、若手作家は、いまや欧米の映画界でも文学界でも(覚えやすいようにと)自分の民族名をヨーロッパ言語の名前に変えたりしない、誇り高い意識の持主たちです。誤った、というか、実際の音とは違う読みに対してはとても敏感なはず。にっこり笑いながら心の奥では「きちんと発音してくれ!」と思っていることは容易に想像がつきます。
アカデミー賞受賞を機に、日本でも広く知られる俳優になると思われるチウェテル・エジオフォー。来日したとき、インタビュワーから「キウェテルさん」と呼ばれたら、きっといい気持ちはしないでしょうねえ。まあ、名前の読みは、ホントに難しいんですが、間違えながら修正していくしかないのでしょう。
Wiki はだれもがアクセスして、ひとつの目安にするサイトです。ぜひ、これを機会に原音により近い表記にあらためられるといいなあ、と思います。
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2014.3.8付記──あらためて俳優ご本人の発音を聴くと、Ejiofor をエジオフォーといっているため、このブログ内の「エジョフォー」を「エジオフォー」に変えました。